Gentsome 男性更年期特化コンディションOS
MEDICAL

見えない不調が組織を蝕む前に——MenLabが描く男性更年期×健康経営の実装ロードマップ

集中力が落ちる。眠りが浅い。気分の浮き沈みが増える。だが検査をしても決定的な原因が見つからず、「年齢のせい」「忙しさのせい」と片づけられていく。こうした“見えない不調”は、本人の内側で静かに積み上がるだけではない。職場では意思決定の質、対人摩擦、仕事の再現性、マネジメントの安定性といった形で滲み出し、組織の生産性を少しずつ削っていく。

ZEROICHIは以前、男性更年期を「個人の体調問題」としてではなく、受診・相談に至るまでの導線が断絶している「構造の問題」として捉え直す視点を提示した(※後掲「過去掲載」参照)。その問題提起は、語りにくさと見えにくさによって放置されがちな領域に、社会設計としての課題を与えるものであった。

しかし、問いはまだ残る。導線を設計し直す、と言うのは容易い。だが実際に、誰が、どこから、どのように社会へ実装していくのか。企業の健康経営、医療機関、働く当事者のあいだに横たわる距離を、現実の運用として埋めることはできるのか。

本稿はその続編である。MenLab株式会社(東京都渋谷区 代表取締役 松浦良彦)が提供を開始したプラットフォーム「Gentsome(ジェントソーム)」が掲げるのは、治療そのものではなく、非医療領域で「次の一歩」へ到達する体験を整えることである。同氏への取材で見えてきたのは、理念ではなく、実装のための具体的な順路であった。

男性更年期は“個人の不調”で終わらない

男性更年期は、睡眠の質の低下、疲労感、気分の落ち込み、集中力や意欲の低下など、働くうえで重要なパフォーマンスに影響し得る状態を含むとされる。一方で、本人が「何が起きているのか」を言語化しづらく、周囲も踏み込みづらい。その結果、相談や受診の入り口に辿り着きにくいという構造が生まれる。

この構造が厄介なのは、本人の苦痛が“個人の内面”に閉じたまま長期化しやすい点にある。症状が劇的に現れるとは限らず、仕事は続けられてしまう。だがその「続けられてしまう」が、企業側にとっては損失の見えにくさを生む。休職や離職のような明確なイベントに至る前に、プレゼンティーズム(出社しているが生産性が落ちている状態)として積み上がり、意思決定やチーム運営の質を鈍らせる。

ここで重要なのは、男性更年期を“個人の努力不足”として扱う限り、問題は解けないという点である。頑張りや気合で覆い隠すほど、原因の特定と適切な相談が遅れ、結果として組織の損失が拡大する。男性更年期は、当事者の心身の問題であると同時に、組織設計の問題でもある。見えない不調を見えないまま放置する企業ほど、静かな形で競争力を失っていく。

MenLabが狙うのは“医療の前”の断絶である

MenLab株式会社の構想は、松浦氏自身の原体験から出発している。40代に入り、原因不明の体調不良、集中力の低下、不眠といった状態を経験しながらも、それが男性更年期に関係する可能性があるという認識に至らず、長期間適切な対処ができなかったという。

男性更年期の不調が「自己診断・情報過多・受診先不明」により医療へたどり着きにくい構造を示す図
図:男性更年期が「見えないまま放置される」構造
松浦良彦氏の原体験をもとに整理した概念図。医療機関での診療によって原因が特定され、症状の緩和につながる可能性があるケースもある。しかし実際には、その医療へたどり着くまでの道筋が見えにくく、多くの人が相談や受診に至らないまま不調を抱え続けている。

取材で繰り返し語られたのは、症状そのもの以上に、「どこに相談すればよいか分からない」「何が正しい情報か分からない」という断絶であった。医療の知識が不足している、という単純な話ではない。医療機関へ行く以前に、情報の信頼性を判断できず、心理的にも実務的にも入口が分からない。ここに“導線の空白”がある。

Gentsomeが扱うのは、この空白の部分である。MenLabは自らが医療機関ではなく、検査の実施や診断、治療を行う立場ではないことを明確にし、役割を非医療領域に限定している。具体的には、男性更年期に関する情報提供、検査受診に際する申込・事前案内・体験設計、受検後の行動選択に関する案内などを一体で提供し、「次の一歩」へ到達する環境を整えるという位置づけである。

ここで誤解してはならないのは、Gentsomeが「治す」ことを約束するサービスではない点である。治療や診療は医療機関が担う領域であり、MenLabの役割は、当事者が必要に応じて医療へつながるための前段を整えることにある。言い換えれば、医療と生活者のあいだにある落差を、生活者の体験設計として埋める取り組みである。

健康経営の“空白地帯”に、どう実装するのか

男性更年期の難しさは、当事者が声を上げにくい点にある。本人が気づけない場合もある。気づいても言い出しづらい場合もある。さらに職場では、体調の話が評価や信頼と結びつく懸念が生じやすい。結果として「個人が自腹で、個人の責任で、個人で解決する」方向へ押し込まれやすい。

だがその構造が続く限り、企業側の損失は見えないまま拡大する。だからこそ、MenLabが重視するのが「健康経営」との接続である。男性更年期を本人の不調として個別対応するのではなく、企業の生産性や組織パフォーマンスの基盤課題として位置づけ直す。企業側の意思決定と制度設計のラインに乗せることで、当事者の“自己責任”に閉じない実装が可能になる、という考え方である。

取材で印象的だったのは、実装の入口を「制度に組み込まれる場所」として捉えている点である。健康経営の取り組みは、啓発だけでは定着しにくい。福利厚生、健診、人間ドック、社内研修、管理職教育といった“会社の仕組み”に組み込まれて初めて、行動変容が発生しやすくなる。つまり、個人の意志の強さではなく、行動が起きる設計を先に置くべきだという発想である。

男性更年期を取り巻く政策・制度、健康経営市場、研究動向の変化が重なる状況を示す図
図:男性更年期を取り巻く社会環境の変化
政策・制度の動き、企業の健康投資の拡大、プレゼンティーズム研究の進展といった要素が重なり、男性更年期を個人の問題ではなく「組織の生産性」と結びつけて捉える土壌が整いつつある。こうした環境変化が、企業制度の中で男性更年期対策を実装する条件を形成している。

この視点は、男性更年期をめぐる社会の現実にも適合する。語りにくいテーマは、啓発メッセージだけでは動かない。必要なのは「相談しやすい場」ではなく「相談しなくても次の一歩が踏める導線」である。本人が言い出せなくても、家族や周囲が変化に気づき、情報へ到達できること。職場で弱さを自己申告しなくても、制度として選択肢が用意されていること。健康経営と接続する意義は、まさにここにある。

参入障壁は“技術”ではなく“信頼の構造”である

ヘルスケア領域では、プロダクトの模倣は起こり得る。情報提供や予約導線、体験設計といった要素は、表面的には再現可能に見える。しかし、男性更年期という領域において本質的な参入障壁になるのは、技術よりも「信頼の構造」である。

第一に、医療機関との協力関係である。必要な場合に適切な医療へつながる導線は、医療機関側の理解と受け皿がなければ成立しない。医療行為を行わない非医療領域のプレイヤーが、医療の専門性に敬意を払いながら協働し、生活者の体験を接続する。この関係性は短期間で複製しづらい。

第二に、企業側の制度へ入り込む導線である。健康経営の領域は、単に良いサービスがあれば導入される世界ではない。人事・労務・産業保健・経営層の意思決定、社内合意形成、運用設計、費用対効果の説明が必要である。ここを通過できる「導入の型」を持つことが、実装の競争力になる。

第三に、運用の積み上げである。検査受診に関する不安の解消、受検後の行動選択の案内、情報の信頼性確保、当事者の心理的ハードルの扱い。こうした細部は、実装しなければ磨かれない。つまり、運用知が資産になる。

MenLabが掲げるのは、医療と企業と個人をつなぐ“インフラ”の構想である。インフラは、最初に敷設した者が強いのではない。継続して維持し、利用され、信頼を積み上げた者が強い。男性更年期という未開拓領域では、まさに信頼の積み上げこそが参入障壁になる。

MenLabが見据える次の地平——「社会実装」を完了させる条件

MenLabの未来像は、単にサービスを提供して終わるものではない。取材から読み取れるのは、導線を敷設し、それを社会の制度と運用に編み込み、やがて当たり前の選択肢へと変えていく必然ラインである。

第一段階は、当事者が「次の一歩」に到達できる体験を整えることである。検査を受けたいが方法が分からない、情報の正しさが判断できない、どこへ相談すればよいか分からない。ここで迷子になる人を減らす。これは小さく見えて、社会実装の出発点として極めて重要である。

第二段階は、企業の健康経営に接続し、個人の自己責任から切り離すことである。個人に閉じた解決は、語りにくいテーマほど進まない。制度として選択肢が存在し、必要な人が自然にそこへ流れ込めることが条件である。

第三段階は、医療と生活者のあいだの距離を適切に保ちながら、連携の密度を高めることである。医療化の過剰も、自己責任論の放置も、どちらも社会的な損失を拡大させる。必要な人が適切なタイミングで医療へつながる。そのための境界設計が、社会実装の品質を決める。

そして第四段階として、積み上がった運用と知見が、より大きな改善循環を生み始める可能性がある。男性更年期は「気合」でも「根性」でも解けない。だからこそ、社会が設計として扱えるようになった瞬間、企業も個人も救われる。見えない不調が組織を蝕む前に、仕組みとして先回りできるかどうかが問われている。

会社概要

会社名:MenLab株式会社
代表者:代表取締役 松浦 良彦
所在地:東京都渋谷区神南1−11−4 FPGリンクス神南5階
事業内容:
・男性更年期に特化した健康経営支援事業
・検査受診支援プラットフォーム「Gentsome」の運営
・医療機関での受診導線設計(非医療領域)
・セミナー・共同研究・プレゼンティーズム改善支援

■Gentsome Check:https://gentsome.jp/

ZEROICHI編集部の注目理由

“導線の再設計”が、健康経営を次段へ進めるからである

ZEROICHI編集部が本件に注目した理由は、男性更年期を「語りにくい個人の問題」から、「構造として設計し直すべき社会課題」へと引き上げている点にある。症状の重さや不安の煽りではなく、「なぜ受診に至らないのか」「なぜ企業が関与しづらいのか」という導線の欠如に焦点が置かれている。

さらに今回の取材で重要だと判断したのは、その問題提起が“思想”で終わらず、健康経営という制度の回路に接続して社会実装を進めようとしている点である。男性更年期は、個人の体調の揺らぎに見える。だが組織から見れば、生産性、意思決定、離職、エンゲージメントに跳ね返る経営課題である。ここを個人と企業の間で分断せず、非医療領域から医療へつながる導線として再設計する試みは、健康経営の次の段階を示唆する。

個人の不調を、個人の責任から解放し、社会の設計問題として扱う。必要なのは「頑張り直す」ことではない。「つながり直す」ことである。本件は、その最初の導線を社会に敷こうとする動きとして、整理しておく意義があると編集部は判断した。

原文リリース(参照)

原文リリース発表日付:2026年1月26日
タイトル:日本初※「男性更年期に特化したスタートアップ」MenLab株式会社、働く男性のコンディション可視化と次の一歩を支えるプラットフォーム「Gentsome(ジェントソーム)」提供開始
原文リリースのURL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000176591.html

過去掲載(参照)

ZEROICHI記事掲載日付:2026年2月12日
タイトル:男性更年期を「個人の不調」から解放する―MenLabが示す、労働生産性と健康経営をつなぐ新しい導線設計
記事のURL:https://zeroichi.media/medical/38005