空き家はなぜ動かないのか──ジェクトワンが見据える「意思決定停止市場」の正体
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空き家はなぜ動かないのか──ジェクトワンが見据える「意思決定停止市場」の正体

空き家問題は「家が余っている」という単純な需給の話ではない。前回ZEROICHIでは、株式会社ジェクトワン(東京都渋谷区 代表取締役 大河幹男)が公開した空き家流通プラットフォーム「空き家のコタエ」の自動査定を起点に、価格・活用・解体を同時に並べることで“比較不能”を壊し、判断を前へ進める設計を読み解いた。

今回、ジェクトワンの広報担当である岡田麻美氏・武井理紗氏への取材を通じて見えてきたのは、同社が単に「査定ツールを作った」わけでも、「空き家を買い取る会社」でもないという点である。彼らが真正面から向き合っているのは、空き家が市場に出ない最大の理由である“意思決定の停止”そのものだ。空き家を動かすために必要なのは、価格の提示だけではなく、判断に至るまでの心理的・手続き的摩擦を削る実装である。本稿は、取材内容と公表情報を基に編集したものであり、独自調査・独自検証によるものではない。

「空き家の価値が分からない」——その先にあった問い

前回記事で焦点にしたのは、空き家所有者が直面する「三つの不確実性」であった。価格が分からない、活用の絵が描けない、解体の撤退コストが見えない。空き家のコタエは、これらを同一画面に並べ、判断の土台を先に作る。

しかし取材で印象的だったのは、ジェクトワン側の問題設定が、さらに一段深いところに置かれていたことだ。彼らが繰り返し示したのは、「空き家は存在していても、所有者が動けない状態にある」という認識である。空き家問題を“物件”として眺めるのではなく、“人の意思決定”として捉え直している。ここに同社の特異性がある。

空き家は「余っている」のではなく、「止まっている」

取材から浮かび上がったキーワードは、空き家が増える理由を「市場に出せない/出さない」側に置いている点である。所有者は専門家ではない。相続や思い出、近隣への配慮、維持管理の負担、手続きの不安が重なり、判断が先送りされやすい。さらに、行政の取り組みが進んだとしても、個別物件の事情が多様である以上、制度だけで一気に解ける問題ではない。

ここで重要なのは、空き家問題を「需給」や「老朽化」だけで語ると、解は“供給を減らす”方向に寄りがちになることである。しかし現実には、壊したくない、活かしたい、でも進め方が分からないという所有者が一定数いる。ジェクトワンが見ているのは、この“動きたくても動けない層”が抱える摩擦である。

ZEROICHI編集部としての整理は明確である。空き家問題は需給問題である前に、意思決定停止問題である。市場が動かない最大要因は「価値がない」ではなく、「判断できない」にある。

空き家が市場に出ない構造。価格・活用・解体の不確実性が意思決定を止め、空き家が固定化する構造を示した図。
空き家が市場に出ない構造。価格・活用・解体の不確実性が重なり、所有者の意思決定が止まる。

「動いてください」ではなく「こちらが動かす」──アキサポが踏み込んだ実装責任

取材の中で、岡田氏は同社の差別化要因として、買取・解体などの単機能ではなく、総合的に相談に乗る“総合窓口”である点を挙げている。専門分化が進むほど、所有者は「どこに相談すべきか」で止まる。そこを一本化すること自体が、意思決定摩擦を減らす設計である。

さらに踏み込みとして語られたのが、アキサポ(空き家解決サービス)の「責任の取り方」である。取材では、空き家の活用において所有者側の初期負担を可能な限り抑える設計にこだわってきたという趣旨の説明があった。言い換えれば、所有者に追加の意思決定負担や支出負担を極力残さない方向で、実装側が関与する構造を選んでいる。

象徴的なのは、工事費用が発生し得るケースに関する説明である。例えば活用するうえで必要な工事を行う場合、契約期間内で回収可能な範囲の工事については同社側が関与するという考え方が示された(※具体条件は物件状況等により異なる)。これは、単に資金力の問題ではなく、空き家活用を成立させるために誰が初期リスクを担うかという設計思想に関わる。

従来モデルの限界:所有者依存構造

仲介型、マッチング型、情報提供型の多くは、所有者が「やる」と決めた瞬間に強い。しかし、決める前の摩擦を削り切れない場合がある。空き家問題の厄介さは、まさにその“決める前”にある。

アキサポの踏み込み:実装責任の引き受け

ジェクトワンは、この“決める前”を動かすために、総合窓口と実装支援を重ねている。取材では、不動産業界の一般的な資金循環モデルに触れつつ、同社は自ら一定の実務責任を担う体制を整えてきた点が特徴であるとの説明があった。結果として、同様の取り組みを行うには一定の体制構築が求められる領域になっている。

AI査定は“答え”ではなく“起動装置”である──「空き家のコタエ」の本当の役割

前回記事で扱った「空き家のコタエ」は、選択肢を並べることで比較不能を壊す仕組みであった。取材内容と接続すると、その役割はさらに明確になる。空き家のコタエは、最終回答ではなく、所有者の意思決定を起動させるための装置である。

ジェクトワンの空き家事業構造。空き家のコタエによる判断支援から、アキサポによる実装、活用までの流れ。
ジェクトワンの空き家事業構造。判断支援(空き家のコタエ)から実装(アキサポ)までを一体で設計している。

査定結果が「正しい価格」を確定するわけではない。むしろ重要なのは、所有者が次の一歩を踏み出すための材料を手元に揃え、相談の心理的障壁を下げることだ。取材でも、空き家事業全体(アキサポと空き家のコタエ)が連続した取り組みとして語られている。

ZEROICHI編集部としてここで押さえるべき視点は一つである。真の勝負は「査定 → 実行」の転換率である。査定の提示がいかに洗練されても、実行に接続しなければ市場は動かない。逆に言えば、接続できた瞬間に、空き家の固定化をほどく力になる。

民間インフラとしての空き家事業という視座──ジェクトワンの構造的特異性

取材の中で、行政との関係に触れる文脈として、防災上の課題を背景に解体補助などの制度が設計されている一方、所有者の意向や個別事情によっては制度だけでは対応が難しいケースも存在する、という趣旨の説明があった。その隙間に対し、同社が工事や活用提案を含めて関与することで、制度の対象外になりやすい領域を補完する動きがある。

さらに、スケールの考え方も示唆的であった。空き家問題を本格的に解くには、単独企業で完結させるのではなく、パートナー連携を含めたネットワークとして回す必要があるという方向性が確認できる。これは、空き家を“自社案件”として囲い込むのではなく、社会的な未解決領域として捉えている姿勢の表れとも言える。

ZEROICHI編集部が注目するのは、個別サービスの巧拙ではない。空き家市場の構造的詰まりに対し、事業として踏み込んでいる点である。空き家が増え続ける社会において、判断摩擦を削る設計は、民間側からの重要なアプローチの一つになり得る。

スケールの壁をどう越えるか──それでも残る現実的論点

取材では、課題についても率直な言及があった。特に印象的なのは「エリア」の問題である。最適な提案を目指しつつも、事業として成立する条件が必要であり、所有者の希望する活用がすべて実行できるとは限らない。その場合、買取を含む別の選択肢を提示することもあるという。

この点は、総合窓口型モデルの特徴でもある。単機能サービスであれば対応不可で終わる局面でも、同社は複数の選択肢の中から現実的な解を提示する立場にある。今後は、案件増加局面における運用効率や、地域特性への対応力、査定から実行までの接続強度などが、事業の伸びしろを測る観測ポイントになっていくと考えられる。

判断インフラは市場を変えるのか

空き家市場を動かす鍵は、派手な成功談ではない。意思決定を止めてきた摩擦を、地道に削ることにある。ジェクトワンの取り組みは、空き家を「負担」や「放置対象」として固定するのではなく、「判断可能な資産」へ戻すためのインフラ設計として読むことができる。

その意味で、同社が向き合うのは不動産そのものというより、判断プロセスの再設計である。空き家のコタエが入口となり、アキサポが実装を担い、外部パートナーとの連携が進む。この連結が強まるほど、空き家は“止まっている状態”から抜け出しやすくなる。

ZEROICHI編集部としては、今後の観測ポイントを二つに絞る。第一に、査定から実行までの転換率がどこまで高まるか。第二に、ネットワーク化によって実行主体をどこまで拡張できるかである。ここが進展したとき、空き家市場は徐々に“動く市場”へ近づいていく可能性がある。

会社概要

  • 社名:株式会社ジェクトワン
  • 所在地:東京都渋谷区渋谷二丁目17番1号 渋谷アクシュ21F
  • 設立:2009年1月28日
  • 代表取締役:大河 幹男
  • 資本金:1億3,000万円
  • 事業内容:総合不動産開発事業(住宅、ビル、商業、ホテル)、リノベーション事業、賃貸管理事業
  • 空き家事業
    ☛アキサポ:https://www.akisapo.jp/
    ☛空き家のコタエ:https://akiyanokotae.com/ 
  • ホームページ:https://jectone.jp/

■原文リリース(参照)

原文リリース発表日付:2026年2月17日:ジェクトワン、新プラットフォーム「空き家のコタエ」をいよいよ始動!空き家所有者向け「自動査定サービス」を2月17日より提供開始
原文リリースのURL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000124.000039551.html

■過去掲載(参照)

ZEROICHI記事掲載日付:2026年2月26日:「空き家の価値が分からない」をAIでほどく。ジェクトワンが始動した「空き家のコタエ」が狙う流通の再設計
記事のURL:https://zeroichi.media/business/38167