FOOD

カラスミのような旨味を持つ「藻」が、なぜ生まれたのか

藻と聞くと、多くの人は健康食品やサプリメントを想像するかもしれない。だが、うま藻の入口はそこではない。高田氏が取材の冒頭で語ったのは、まず「食べれば分かる」という実感であり、その味わいは「カラスミに似ている」というものであった。

1グラムの個包装でもしっかり味が立ち、2人分程度に使えるという説明からも、うま藻が単なる栄養素材ではなく、味の存在感を備えた食材として設計されていることが見えてくる。

実際、昨年2025年8月には、堀江編集長のYouTubeチャンネル(ホリエモンチャンネル)で、沖縄の生産現場の視察と試食の様子が紹介されている。

ここで重要なのは、話題性そのものではない。うま藻が、技術や理念の前に、まず「味覚体験として人を引きつけるもの」として受け止められている点である。 

しかし、AlgaleXが本当に向き合っているのは「美味しい新食材」ではない

高田氏によれば、事業の出発点は「美味しいものを作りたい」という願いではなかった。

原点にあったのは、商社時代に見た天然魚由来原料の供給不安であり、養殖魚を育てるために天然魚に依存する構造そのものへの違和感であった。魚を食べ続けたいのであれば、魚を育てる仕組みの側を変えなければならない。

高田氏は、その本質課題を「餌」に見ている。

この問題設定は重い。陸上養殖やゲノム編集のようなアプローチがあっても、餌の問題が変わらない限り、根本的な解決には届かないというのが高田氏の見立てである。

AlgaleXが向き合っているのは、新しい珍味の開発ではなく、魚食文化の前提条件そのものの再設計なのである。

魚の原点をたどると、答えは“藻”に行き着く

AlgaleXの発想の核には、魚の栄養は魚そのものから生まれているわけではない、という認識がある。

公式サイトでも、魚はDHAを蓄えるが作り出すことはできず、最初にDHAを生み出すのは藻であると説明している。つまり、魚を支えているのは、より上流にある藻類なのである。 

だからこそ田氏は、食物連鎖の根元にある藻を、人が制御可能なかたちで安定生産できれば、天然魚に依存しないDHA供給の可能性が開けると考えている。

記事として見るべきポイントはここである。AlgaleXは「藻を売る会社」ではなく、魚を守るために、魚の餌の起点をつくろうとしている会社なのである。 

従来の養殖では魚を育てるために魚由来の餌が使われているが、AlgaleXは人工培養した藻を起点にすることで魚に依存しない構造を目指していることを示す図
養殖の課題は「魚を育てるために魚を使う構造」にある。AlgaleXはその起点を藻に置き換えることで、天然魚への依存を減らすアプローチを取る。

AlgaleXの特異性は、「残渣を培地に変える制御」にある

では、AlgaleXの何が特異なのか。取材で明確であったのは、同社の強みが単に藻を育てていることではなく、ばらつきの大きい未利用資源を使っても、最終的に狙った品質へ持っていける制御技術にあるという点である。

高田氏は、藻の成長段階ごとに必要な栄養が異なるため、その過程を見ながらAIで予測・調整し、原料の栄養成分に揺らぎがあっても、狙ったスペックに仕上げるのが自社技術だと説明している。

ここで使われるAIは、会話を生成するようなAIではない。

成長過程に応じて、次に何を与えるべきか、どの条件をどう整えるべきかを判断し、品質のぶれを吸収するための制御の頭脳である。公式リリースでも、泡盛粕のように栄養素が不安定な原料に対し、生育過程でばらつきを補正しながら育てる“杜氏のような働き”をするAIを独自開発したと説明している。 

しかも、その入力に置かれているのが、沖縄でこれまで捨てられてきた泡盛粕である点が大きい。

通常の発酵は原料の均質さを前提としやすいが、AlgaleXはその揺らぎごと受け止めたうえで、高付加価値な食材へ変換している。

残渣を単に再利用しているのではない。捨てられていたものを、狙った品質の資源へ変える制御力こそが、同社の技術の核心である。

それでも彼らが最初に売っているのは、飼料ではなく「旨味食材」だった

ここで面白いのは、AlgaleXの最終目標が養殖側にあるにもかかわらず、現時点で市場に出しているのが飼料ではなく「旨味食材」であることである。

公式サイトでも、養殖魚向け飼料原料市場は価格競争が厳しく、スタートアップがすぐに戦える領域ではない一方、「うま味になる藻」という市場を少しずつ開拓していると述べている。 

取材でも高田氏は、藻そのものを食べたいという人はまだ多くない一方、DHAを必要とする人は多いという現実を見て、まずは顕在市場から入る必要があると語っていた。

新市場を一気に作るのではなく、既存ニーズのある領域に差し込み、そこから生産・認知・収益を積み上げていく。この順序設計に、高田氏の事業家としての現実感が表れている。

この意味でAlgaleXは、理念先行の会社ではない。理想を実現するために、どの市場から、どの順番で入るべきかを考えている会社である。

うま藻が「美味しい」ことは重要だが、それはゴールではなく、構造課題へ到達するための最初の社会実装なのである。 

AlgaleXがまず食材としてのうま藻で収益と認知を築き、その後に養殖飼料へ展開していく二段階の事業戦略を示した図
AlgaleXは、いきなり飼料市場に入るのではなく、食材として市場を立ち上げることで、段階的に本来の課題解決へ接続する戦略を取る。

美味しさだけでは広がらない。だから「日常に入り込む」設計が必要になる

もっとも、高田氏は美味しさだけで市場が広がるとは考えていない。取材では、初期には味の良さで非常に強い反応があった一方で、それだけでは市場規模が限られるという認識も示していた。

高級珍味的なポジションにとどまれば、話題にはなっても、スタートアップとして十分な広がりを持つ前に頭打ちになる可能性がある。

だからこそ、うま藻の将来像は「珍しい一品」ではなく、「日々の食卓に入り込む栄養・旨味素材」であるべきなのだろう。

高田氏は、フレッシュなDHAという観点や日常用途への接続を意識しており、食材としての導入余地を、健康意識の高い層や飲食店に限らず、より広い日常市場へ拡張していく必要を見ている。

ここに、AlgaleXが単なる“味の会社”で終わらない理由がある。

うま藻が広がることの意味は、食材が一つ増えることではない

うま藻が社会に広がる意味は、新しい食品トレンドが一つ増えることではない。高田氏が見ているのは、藻を十分に作れるようになれば、天然魚に依存しない養殖が可能になり、海は回復に向かうかもしれないという未来である。

公式メッセージでも、同社のゴールは「美味しい藻を作ること」ではなく、「海を未来に繋ぐこと」だと明言されている。 

この視点に立つと、うま藻は「魚の代わり」ではない。

むしろ、これからも魚を食べ続けるために、魚に依存しない餌の起点をつくる試みである。

サステナブルフードという言葉は、ともすると「正しいが我慢が必要な食品」という印象をまといがちである。しかしAlgaleXの挑戦は逆である。おいしいから手に取られ、食べてみたいから広がり、その先で海の未来に接続する。

その順番で社会に入っていく点に、この取り組みの意義がある。 

ZEROICHIがこの取り組みを取り上げる理由

ZEROICHIが注目したのは、AlgaleXが新しい食品を売っているからではない。食の未来を「代替」ではなく「再設計」として捉えているからである。

魚が減っているから別の何かを食べよう、という発想ではない。これからも魚を食べられる未来のために、魚を育てる前提条件の側を変えようとしている。その発想が、きわめて構造的である。 

しかもその挑戦は、環境負荷の低減や資源循環といった正しさだけに寄りかかっていない。入口には「カラスミのような旨味」があり、技術には「残渣を培地に変える制御」があり、事業には「まずは食材市場から入る」という戦略がある。

美味しさ、技術、社会課題、事業設計が一本の線でつながっているからこそ、ZEROICHIはこの取り組みを取り上げる意味があると考える。

これは珍しい食品の話ではない。
未来も魚を食べられるようにするための話である。 

■原文リリース(参照)
2025年8月14日:AI発酵制御を搭載したうま藻の生産現場、通称「うま藻場」、8月25日より一般公開
原文リリースのURL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000076018.html


■過去掲載(参照)
2025年8月30日:驚きの宿「星のや沖縄」に潜入&堀江も出資希望の新調味料「うま藻」の工場を視察【HORIE ONE】
記事のURL:https://www.youtube.com/watch?v=E12OrX01DXc