FieldWorksのロボットには、一見するとハイテクとは真逆の「バーコード」が貼り付けられています。しかしそこには、過酷な路面状況の畑で確実に全自動走行を実現するための、合理的かつ驚くべき工夫が隠されていました。「精密な制御よりも、いかに安価に、現場の課題を解決するか」。ロボコンで培った「勝つための設計思想」は、今、農業の常識を塗り替えようとしています。
第2回では、子機ロボットと親機、そして軽トラを連携させた「全自動散布システム」の全貌から、20kg以下の軽量設計が実現した「宅配便で送れるメンテナンス」という革新的なモデルまで、現場を驚かせる合理的な開発哲学に迫ります。
・その1:「20kgを背負う重労働」からの解放。ロボコン出身者が挑む農業ハックの正体
・その3:「ガレージから世界へ」。つくばの拠点で描く、持続可能な農業の未来
親機・子機の連携による全自動化の衝撃

山岸:基本はラジコンで今販売させていただいているのですけれども、最終的な絵姿としては、やはり全自動化していきたいということがございまして。ちょっと親機を動かしていくのですけれど。
堀江:親機?あ、こちらに乗るということ?
山岸:はい、その通りです。この「ウネマキ」を子機と見立てて、それと連携させます。この子機単体だと、畑の畝まで行って帰ってくることはできるのですけれど、次の畝に行く動作が小型すぎて旋回が全然できなかったり、あるいはタンクがせいぜい20リットルしか積めなかったりします。それを、帰ってくるたびに給水するようなシステムに変えることで解決しました。
堀江:だからこの、バーコードみたいなものが付いているのです。
山岸:おっしゃる通りです。
堀江:なるほど。バーコードを見ているのですね。バーコードの前に立つなと(笑)。
山岸:親機そのものも、親機にタンクが乗っかるのではなくて、今、軽トラとホースでつながっていて、軽トラから給水ができるという形になっています。
久松:農家がどういうオペレーションでやっているかをよくヒアリングして作っています。
堀江:なるほど。これで溜めたら行くわけだ。
山岸:発進してからの距離だけを指定していて。今は仮で5メートルで設定しているんですが、実際の農作業ではこれを100メートルとか設定してもらって。将来的にはこの親機1台で複数の子機を同時に運用することも可能だろうと考えています。ラジコンでウネマキを買ってくださった方が、後で親機を買えば全自動化ができますよ、という。
現場の声を形にする「究極の道具」

堀江:なるほどね。これは楽だわ。
久松:建物の中でやるのだったらレールを敷いてしまえという発想になるじゃないですか。それを既存のこの露地の、かなり畝と畝の間もそれぞれバラバラだし、路面もバラバラ、長さもバラバラというところにどう適用しようかということを、いろいろ工夫していますね。
山岸:やはり、子機そのものだと全自動走行するにはパソコンの処理がかなり重くなってしまうのですが、親機側にそのパソコンを積んで、子機には命令を出すだけという形にすることで、子機は小さいまま畑の畝に入っていけるという切り分け方をしています。
堀江:すごい特化してるんですね。おもしろ。
久松:精密なメーカーが設計しようとすると、真っ直ぐ走るための機構とかにすごくこだわってしまうのですけれど、これは単に横にぶつかったら戻るだけの、そこは制御してないわけですよね。
山岸:畝が物理的に立ってるっていうことを前提としていますね。
久松:補充とか次の畝に行くということだけを、いかに安価にやろうかという発想が、非常にベンチャー的というか、ロボコン的というか。面白いなと思っていまして。
堀江:なるほど。ロボコン的ですね。ここまで入れているところはあるんですか?
山岸:今、宮崎の農家さんに、本当に大規模なサツマイモを15ヘクタールとかやっている農家さんのところに、試験導入として親機をお渡しして使っていただいています。サツマイモの除草剤散布は今がピークなので、使ってもらっているところです。
堀江:除草剤は、ピークの時期にしかまかないのですか?
山岸:そうですね。サツマイモは葉が生い茂ってきて、畝を覆い尽くせばその後まかなくていいのです。
堀江:なるほど。サツマイモの植え付けや収穫はどうしているのですか?僕は手で植えていた気が。
久松:植えるのは今でも基本的には一個一個手作業です。多少の道具はあるんですが、やはりうまくいかないのです、こう差し込む。
堀江:ね、植えてました。子供の頃。その時代から基本的に変わってねえんだ。
久松:除草剤が開発・普及してから大したイノベーションがないですね。除草剤も畝間を覆ってくれるまでギリギリ、しかも作物にかけないように手作業でやるっていうことは変わってないですよ。
山岸:そうですね。一部、上から作物ごとかけても、その作物だけ生き残るみたいな、穀物などはできるイメージですけど、それでもやはり一部なので、ほとんどの人がこうやってますね。
堀江:ちなみに収穫はどのようにするのですか?
久松:収穫は掘りながらコンベアで上げてきて、人間が選別していくという。だから、機械化できているところと全くできていないプロセスの差が激しくて、一番人を使うのがやりにくいパターンなんです。
山岸:ラジコン版であっても、人がやるより2〜3倍やはり早くて、かつ作業負担が何より小さい。それは大きく評価されてるかなと思います。
堀江:それは本当にそうですね。わかります。
久松:やはり軽トラに乗るということも結構重要な要素で。軽トラしか持っていないと言うこともあるけれど、軽トラしか入れない畑などもあるわけで。
山岸:あとは最近ですと、大型の機械を運用できない技能実習生の方でも、免許がなくても簡単に運べるというのは評価していただけているかなと。
久松:茨城県の30代以下の農業従事者の3人に1人は外国人ですからね。
「食への愛」と「実家の悩み」。ロボコンが農業の救世主になるまで

堀江:なぜ農業分野に注目されたのですか?
山岸:やはり単純に、まずは食べるのが好きで、食に関わる仕事をしたいと思っていたこと。それから、弊社メンバーの一人の実家が長野で米農家を営んでいるのですが、その夏場の作業負担があまりにも大きいという話を聞いていました。まさにそのような現場で、「ロボコンをやっていたのだから、全自動のロボットを作れないのか」という声に触れたことで、こうしたニーズが確実にあるのだなと確信したのです。
堀江:なるほど。
山岸:あと当時、2022年頃でしたので、世界情勢的に食糧危機のようなものが取り沙汰されていた時期でもありましたから、「何かこういうことに貢献できたらいいな」ということですね。
堀江:いいですね。でも、将来的にはAIなどを搭載して、もっと汎用性が高いものも作れそうですよね。
山岸:そうですね。やはりそういう方向性も見据えつつ、ただ、そうなってくるとどうしても消費電力量が大きくなったり、価格が高くなったりしてしまいます。ですから、簡単なラジコンのような仕様のものは、それはそれで並行して提供していきたいと考えています。
堀江:なるほど、なるほど。
山岸:どちらの方向性も持たせられるということですね。
堀江:まあ、でも割と単純なメカではありますからね。すごい。
山岸:ありがとうございます。
堀江:農業分野に特化するのはいいですね。
山岸:僕もそう思います。
堀江:そうなんですよ。僕の投資先にもそういうロボット会社があるのですが、そこは非常に汎用的なものを作っていたので。こうして完全に農業に特化して軸をぶらさずにやっているのは、素晴らしいことだと思います。
山岸開(Kai Yamagishi)
新潟県出身。長岡高専、長岡技術科学大学で高専ロボコン、学生ロボコンにチームリーダーとして参加。その後、2020年にDJI主催のロボット競技大会(RoboMaster)に参加するための団体Phoenix Robotsを立ち上げる。筑波大学大学院に進学中に、延べ10年近くロボコンに参加したときの仲間と共に農業用ロボットの開発を開始。2023年6月に株式会社FieldWorksを創業。現在に至る。