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抗老化で遅くなる「がん」の確率 【ワシントン大・今井眞一郎教授が語る 「抗老化と長寿」研究の最前線 その3】

堀江貴文氏は7月26日、ワシントン大学の今井眞一郎教授を取材。抗老化と長寿などについて話を聞いた。がんになる確率を遅らせることができるという抗老化。その理由とは?(初回配信日:2017年8月7日)

抗老化でがんになる確率も著しく遅くなる

今井 実は今、脂肪が分泌するNAMPTへの注目がかなり高まっています。そして、先ほど申し上たように、NAMPTが作っている物質がNMNというものです。このNMNを投与したら老化が遅れるのではないかと思って、マウスに1年間投与しました。すると、人間でいう60代くらいのマウスが40代くらいの状態に保たれることがわかりました。

堀江 すごい。で、そのあとはどうなったんですか?

今井 このプロジェクトは1年間で終了してしまったので、寿命への影響がどうなるかはわかりませんでした。でも、私は寿命が延びるんじゃないかと予想しています。

堀江 そうですか。

今井 不老不死ということはありえません。必ず、死が訪れる。でも、それまでの間、健康な状態は保てるかもしれない。これは私がいつも話していることなんですが、“プロダクティブエイジング”というのが、私の研究のコンセプトであり、目標なんです。年をとっても健康で、今と同じようにアクティブに自分の生活を楽しんだり、社会に貢献し続けることができたら、お年寄りが増えても介護などがあまり必要にならず、高齢化の問題は今考えているよりひどくはならないでしょう。

堀江 そうですね。例えば、がん細胞とかには、どう働くんですか?

今井 私の研究室ではがんを専門には研究していないんですが、サーチュイン機能が失われてがんになる場合と、サーチュイン機能が強まってがんになる場合の2種類があるらしいということがわかってきています。ただ、私たちが非常に興味を持っている現象があります。先ほど脳のSIRT1を強めたマウスで老化が著しく遅れたと言いましたが、実はそのマウスはがんになるのも遅れるんです。

堀江 へー。

今井 研究室で飼っているマウスの多くは、リンパ腫などの血液のがんや肝臓がんなどで死んでいきます。ところが脳のSIRT1を強めたマウスは、がんになるのが著しく遅れました。なぜ遅れたのかはまだわかっていませんが、がんになる時期は確実に遅くなりました。

堀江 NADは加齢とともに減っていくんですか?

今井 はい。その理由はふたつ考えられていて、ひとつは慢性の炎症です。体の中に細菌や他の物質などが入ってくると炎症がおこります。それが治った後も、ある程度軽い炎症状態が続くことがあります。そして、その蓄積が慢性の炎症状態になる。するとNADを合成する酵素の量を下げてしまうんです。

堀江 ふーん。

今井 もうひとつはDNAの損傷じゃないかと言われています。大まかにいうと細胞のダメージですね。細胞の修復には、すごい量のNADを消費するんです。ですから、まとめるとNADの合成の減少と、NADの消費の上昇。

堀江 ダブルでくるんですね。

今井 そうです。

その4に続く

今井眞一郎 Shinichiro Imai

1964年生まれ。医学博士。米国ワシントン大学医学部教授。慶應義塾大学医学部卒。哺乳類における老化・寿命のメカニズムの研究及びその理解に基づく抗老化方法論の確立が専門。