堀江貴文氏は12月19日、東工大の細野秀雄氏を取材。「材料工学」の現在と未来などについて話を聞いた。(初回配信日:2016年12月28日)
「少量のアンモニアを敷地内で作りたい」というニーズが出てきた
堀江貴文(以下、堀江) 細野先生は、今は何をされているんですか?
細野秀雄(以下、細野)今はアンモニア合成をやっています。2007年にセメントから超電導物質を作ることに成功したんですが、この化合物をうまく使うとアンモニアができるんじゃないかと思ってやっているんです。
堀江 それは200気圧とかかけなくても?
細野 はい。常圧ですね。常圧で310℃から400℃くらいで加熱して。もちろん、少し金属を加えるけれどもね。
堀江 で、そこに水を流す?
細野 水というか、窒素と水素ですね。それでアンモニアができる。
堀江 それは、なんでアンモニアができるんですか?
細野 まず、アンモニア合成がなぜ難しいかというと、窒素は安定しているから、窒素結合を切るのが非常に難しいわけです。それで、窒素結合を切るための触媒をずっと探していて、セメントを使った新しい超電導体を作った時に、これを触媒にして窒素を切ってみようと思ったんです。
堀江 へー。
細野 すると、この触媒は窒素を吸着したんです。
堀江 吸着?
細野 はい。結合ではなく、吸着です。
堀江 ゆるい結合みたいなものですか?
細野 そうですね。そうするとアンモニアの合成が常圧下でできました。
堀江 これまで、アンモニアを常圧下で合成しようみたいなチャレンジはなかったんですか?
細野 いや、結構、ありますよ。ここ数年、盛んになってきました。でも、アンモニアの合成は、完成したものだと思われていたんです。ハーバー・ボッシュ法とかで。
堀江 あ、ハーバー・ボッシュ法(窒素と水素を使い高温高圧下で合成する方法)。
細野 でも、ハーバー・ボッシュ法だとプラントがでかくなる。高温高圧で作るからね。それに大量にできてしまう。
堀江 あ、それで、少量をオンサイト(敷地内)で作りたいというニーズが出てきた。
細野 そう。例えば、鉄とかガラスを扱っている会社って……。
堀江 水素が出ますよね、たくさん
細野 今は、それを燃やしているけれども、アンモニアがあれば中和できたり、いろいろな処理ができる。
堀江 アンモニアを中和剤に使うと。
細野 アンモニアって爆発することもあるので、運びにくくなっているんです。だから、自分たちの工場の施設の中で作りたい、と。
堀江 そうですよね。
細野 あとは、風力発電したエネルギーで水を電気分解すると水素がたくさんでる。その時に空気中にある窒素を使うとアンモニアができるんです。アンモニアは貯めておけるから、エネルギーの貯蔵に使える。そして、また必要な時に分解すればいい。
堀江 アンモニアのまま貯蔵しておく、と。
細野秀雄 Hideo Hosono
東京工業大学教授、工学博士。1953年生まれ。埼玉県出身。東京都立大学大学院工学部博士課程終了。名古屋工業大学助教授などを経て、1999年に東京工業大学教授に。現在は東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所教授、元素戦略研究センター長。ノーベル物理学賞の有力候補といわれている。