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「臨床につかえるiPS細胞」でパーキンソン病に挑む【堀江貴文✕京都大学・iPS細胞研究所 高橋淳所長 iPS細胞で進化する、パーキンソン病治療の最前線 その1】

京都大学のiPS細胞研究所で現在所長を務める高橋淳。 堀江貴文氏は、高橋淳所長から、日本でのiPSの応用について、現在行われている最新の臨床試験の話を聞いた。

人類が初めてつくる、「臨床につかえるiPS細胞」とパーキンソン病治療

堀江貴文(以下、堀江) 早速ですが、iPS細胞の応用は今、どんな状況なんですか?

高橋淳(以下、高橋) 現在、日本では12の臨床試験が行なわれています。例えば、私たち「CiRA(サイラ/京都大学iPS細胞研究所)」がやっているのは、パーキンソン病、血小板、関節軟骨、リンパ球などで、大阪大学は心筋と角膜。神戸アイセンターは網膜。慶應義塾大学が脊髄損傷といった感じです。

堀江 そうなんですね。

高橋 CiRA(サイラ)ができたのは2010年です。その時の私たちのミッションは「実際に人に投与できるiPS細胞を作ること」でした。そして、実際に投与できるiPS細胞ができたのが2015年です。

堀江 人に使える、使えないの違いってなんですか?

高橋 やはり、人の体の中に入れるので、まず「体の中でガンにならない」こと。そして「細菌やウイルスに侵されていないクリーンな細胞である」ことが基本ですね。

堀江 ガン化しにくいというのは、どのあたりがポイントになるんですか?

高橋 実は、ハッキリと決まったガイドラインはまだないんですよ。というのも、「臨床に使えるiPS細胞」は、今、人類が初めてつくっているので……。

堀江 でも、なんとなくはあるんですよね。

高橋 そうですね。まず、遺伝子に異常があるとガンになりやすいので、すでにリストアップされているガン関連遺伝子に異常がないかをゲノム(すべての遺伝情報)を読んで確認します。それから、移植する細胞を使って動物実験もします。免疫不全のマウスにiPS細胞から誘導した神経細胞を移植して、ガンができないかを観察するんです。

堀江 なるほど。

高橋 ただ、理屈ではそうなんですけど、私たちの研究が世界で初めてだったので、どれくらいの細胞を移植して、どれくらいの期間観察したらいいのかがわからない。そこで、国の規制当局(PMDA:独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に相談したら 「今の科学でできるだけのことをやってください」と言われたんです。で、「できるだけのことって、どれくらいですか?」と聞いたら「とりあえず、マウスの寿命ギリギリまでやりましょう」ということになりました。

堀江 死ぬまでですか……。

高橋 はい。そして、一年近く経つとポツポツと亡くなるマウスが出てきました。マウスがすべて亡くなってしまうと検証ができないので、移植後52週で区切って生き残ったマウスを調べてガンができていないことを確認し、やっと使えるようになったんです。

堀江 結構な時間をかけているんですね。

高橋 そうですね。それで、ようやく臨床試験が始まったという段階です。

堀江 臨床試験の成績はどうなんですか?

高橋 私たちはパーキンソン病の治療を目指しているんですけど、2018年に最初の試験を始めて、2021年に予定していた7例の手術をすべて終えました。その結果が来年(2024年に)出る予定です。

堀江 パーキンソン病の患者さんって多くないですか?

高橋 厚労省の統計では、数年前で約16万人です。(※1)

堀江 僕の友達にも2人ほどパーキンソン病の人がいます。16万人というと、大雑把にいって日本の人口の1000人にひとりぐらいですよね。僕のFacebookの友達の数からいうと2、3人いてもおかしくないし、実際、いますからね。

高橋 そうですか。

※1 患者の算出方法が変わったため、令和2年の調査では29万人

その2に続く

Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

高橋淳(Jun Takahashi) 京都大学iPS細胞研究所所長
1961年、兵庫県出身。京都大学iPS細胞研究所所長。1993年、京都大学大学院医学研究科博士課程修了後、京都大学医学部附属病院に勤務。2007年、京都大学再生医科学研究所生体修復応用分野准教授、2012年京都大学iPS細胞研究所教授、2022年、京都大学iPS細胞研究所所長