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視細胞の移植でできること【理研・高橋政代が語る、眼科治療の今と未来 その3】

堀江貴文氏は10月29日、理研の高橋正代氏を取材。AIロボットでの実験、iPS細胞での網膜移植、福祉と一体化した医療センターなどについて話を聞いた。視細胞の移植で「見えるようになる」わけではない理由とは?(初回配信日:2018年11月6日)

目の見えない患者が、光を取り戻すだけでも大変なこと

堀江 今、iPS細胞を使った網膜の移植手術は、何例くらいやられているんですか?

高橋 免疫制御剤なしの他家移植を含めると6例ですね。

堀江 他家移植?

高橋 他人の細胞を使うという意味です。加齢黄斑変性の網膜手術といっても、今やっているのは網膜のごく一部で、悪くなるのを防ぐという程度のも。しかし来年くらいに予定しているのは、光を感じる視細胞を含んだ立体網膜の移植です。これが成功すれば、ある程度の光を取り戻すことができる。中枢神経の再構築としては世界初の試みです。

堀江 加齢黄斑変性って、何が原因なんでしたっけ?

高橋 光を感じる視細胞は、網膜の色素上皮に守られているんですけれども、その色素上皮が老化によって悪くなる。すると二次的に視細胞も悪くなるから見えなくなってしまうんです。

堀江 それは、細胞が壊死していく感じですか?

高橋 再生できないので、だんだん萎縮していく感じです。それで視細胞が減って見えなくなる前に、その環境を移植して良くしてあげようと。要は悪くなっていかないということです。

堀江 なるほど。

高橋 よく、「見えるようになるんですか?」って言われるんですが、そうではないんです。

堀江 そういうのって、なんできちんと報道されないんですかね。

高橋 もう、説明は何百回もしてるんですけど……。

堀江 視力を上げるのは、どうなんですか?

高橋 視力を出しているのは、黄斑部という網膜の中にある2㎜くらいの場所だけなんです。

堀江 2㎜だけなんですか?

高橋 網膜の真ん中の2㎜のところだけが、1.0以上出ているんです。その周りはボヤッとしか見えていなくて、0.1以上のメガネをかけても見えないんです。

堀江 その周りの部分は、何に使われているんですか?

高橋 視野の中で、「ここらへんに何かがあるな」っていうのがわかる。視力を上げる2㎜の黄斑部の構造はものすごく緻密なので、それを再現するのはもうひとつ先のことになります。

堀江 なるほど。

高橋 それなのに「視力はどれくらい上がりますか?」と聞かれると、「うーん、視力はあんまり上がりません」としか言えなくて、すると「それなら治らないんですね」ということになってしまうんです。光を取り戻すだけでも大変なことなんですけどね。

堀江 じゃあ、次に予定されている視細胞を含んだ移植というのは、黄斑部ではないということですか。

高橋 黄斑部以外の網膜。ですから視野を広げるとか、真っ暗にしか見えなかった人が、なんとなく形がわかるようになるとか、そういうことになります。たぶん人工網膜と一緒で0.05くらいの視力は出るんじゃないでしょうか。

堀江 あのCCDカメラでやってるやつですよね。

(編集部注:人工網膜とは……メガネなどに取り付けたCCDカメラの画像を首から下げた画像処理機などに送り変換する。変換された信号を網膜の外側に埋め込んだチップを通して視神経に伝える)

高橋 だから、それをチップでやるか、iPS細胞でやるかの違いなんです。そこをなかなか理解してもらえなくて……。iPS細胞を使ったら、なんでも治るみたいに思われているんですよね。

堀江 そういうことを日本のメディアは、あんまり報道しないですからね(笑)。

高橋 そうなんです(笑)。

その4に続く

高橋 政代(Masayo Takahashi)

理化学研究所・網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー。1961年生まれ。92年、京都大学院博士過程終了。京都大学医学部助手、京都大学病院探索医療センター助教授などを経て、現職に。神戸市の先端医療振興財団先端医療センター病院眼科部長なども兼務。