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パーキンソン病は細胞の老化現象【堀江貴文✕京都大学・iPS細胞研究所 高橋淳所長 iPS細胞で進化する、パーキンソン病治療の最前線 その2】

京都大学のiPS細胞研究所で現在所長を務める高橋淳。 堀江貴文氏は、高橋淳所長から、日本でのiPSの応用について、現在行われている最新の臨床試験の話を聞いた。

パーキンソン病は、身体を動かす発火物質“ドーパミン”をつくる細胞の老化現象

堀江 パーキンソン病の人がクネクネ動くのは、どういう理由なんですか?

高橋 薬が効きすぎているときに体が勝手に動いたりすることがあります。薬の副作用です。

堀江 薬はなんですか?

高橋 基本的には「L-ドパ」です。パーキンソン病は、脳内のドーパミンをつくる細胞が少なくなる病気なんです。ですから、単純にドーパミンを投与すればいいんですが、ドーパミンは脳の中に入っていかないんです。

堀江 BBB(Blood-Brain Barrier/血液脳関門)ですね。

高橋 そうです。だから、ドーパミンをつくる原料となるL-ドパを投与するんです。

堀江 ドーパミンをつくる細胞は、なぜ減ってしまうんですか?

高橋 それは、まだよく分かっていません。ただ、ドーパミンをつくる細胞の中にα-シヌクレインというタンパク質が異常に溜まっていくということだけは、わかっています。まあ、いろいろなことが言われていますが、結局、細胞の中に不必要なものが溜まっていくというのは、細胞レベルの老化現象です。いらないものを掃除する機能が弱まっているということだと思います。

堀江 それで、パーキンソン病の患者さんにL-ドパを入れるとどうなるんですか?

高橋 例えば、元気な時は10個の細胞でドーパミンをつくっているとします。そこにα-シヌクレインが溜まってきて、10のうち4つくらいしか働かなくなると、パーキンソン病の症状が出始めます。そのときに投与されるのがL-ドパで、残った4個の細胞に今まで以上にドーパミンをつくらせます。でも、本来は10個の細胞でつくっていたものを4個の細胞でつくるわけですから、オーバーワークになりますよね。人間でいえば栄養ドリンクをガンガン飲んで、無理をして働いているような状況です。粗い例えですが、そういう状態が、薬が効いている状態と考えられます。

堀江 無理してドーパミンを出させてると。

高橋 それで患者さんの症状は改善するんだけれども、やはり無理している状態はよくないということで、細胞移植で減った6個分を補いましょうというわけです。

堀江 ドーパミンをつくっている細胞が集中しているのは、脳のどのへんなんですか?

高橋 ドーパミン神経がたくさん集まっているのは、中脳の黒質という部分です。黒質は大脳の奥にある線条体につながっていて、その回路が体の動きをコントロールしています。

堀江 具体的には、ドーパミンはどういう効果があるんですか?

高橋 ドーパミンがないと体の動きの調節がうまくできなくなるんです。体の動き出しにはドーパミンの発火が必要です。また、細かい動きのコントロールにもドーパミンが必要です。

堀江 なんか潤滑油みたいなイメージですか?

高橋 そうですね。ですから、パーキンソン病の患者さんは、体の動き出しが難しいのと、動く動作が硬いという特徴があります。

堀江 なるほど。人間って何かの動作をするときに発火が必要だというのは、しっくりきますね。でも、ドーパミンじゃなくても、例えば電気刺激とかで動き出しのきっかけを与えることはできないんですか?

高橋 実は、私は外科医としてパーキンソン病の患者さんに電極を埋める手術をやっていました。細い電極を脳に刺して埋め込み、そこに電気を流すと劇的に動きが変わるんです。

堀江 そうなんですか。

高橋 まったく動けなかった人が動けるようになります。

堀江 その手術は、パーキンソン病の患者さんはあまりやらないんですか?

高橋 やはり、脳に電極を入れるということに抵抗があるみたいで、みなさんやっているわけではないですね。でも、年間で数百人くらいの患者さんが手術をしています。

堀江 その電極埋め込み手術の予後はどうなんですか?

高橋 電極を入れた時点では良くなりますが、パーキンソン病の進行を止めているわけではないので……。

堀江 細胞はどんどん減っていくんですもんね。

その3に続く

Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

高橋淳(Jun Takahashi) 京都大学iPS細胞研究所所長
1961年、兵庫県出身。京都大学iPS細胞研究所所長。1993年、京都大学大学院医学研究科博士課程修了後、京都大学医学部附属病院に勤務。2007年、京都大学再生医科学研究所生体修復応用分野准教授、2012年京都大学iPS細胞研究所教授、2022年、京都大学iPS細胞研究所所長