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「胃がんの99%はピロリ菌が原因」「胃がんは予防できる時代に」 【国立国際医療研究センター・ 上村直実が語る“予防医学”の現状とは?その2】

堀江貴文氏は5月25日、国立国際医療研究センターの上村直実氏を取材。「予防医学」の現状などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年5月25日)

ピロリ菌を除菌することで、胃がんは予防できる

上村 僕はその頃、広島大学の医学部を卒業して、大学病院に勤務していました。そして、1987年にアメリカのアラバマ大学に行って研究員をして、1989年に日本に戻って広島県・呉市の病院で働き始めたんですけれども、その時に大学病院から「ヘリコについて、いろいろ調べてくれ」と依頼があったんです。( ※ヘリコはヘリコバクター・ピロリの略称で、ピロリ菌のことを指す)

堀江 なぜですか?

上村 その頃の日本は、消化性潰瘍つまり胃潰瘍や十二指腸潰瘍の人は大学病院にまで行かなかったんです。だいたい市中の病院にやって来る。私が働いていた呉共済病院にもたくさんの潰瘍患者さんがやって来ていました。

堀江 ああ。

上村 日本は国民皆保険制度があるために、内視鏡検査や「生検」(生体から組織を採取して、病気の診断をすること)が比較的簡単にできる。これがアメリカだと「内視鏡をやって組織を採って」なんて簡単にはできない。

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堀江 それは値段が高いっていうことですか?

上村 そうです。それにシステムの違いもある。アメリカで胃の内視鏡検査をやるためには、一般の家庭医にかかって、「高度の貧血」や「高度の体重減少」「吐血」などといった一定の条件が満たされなければ内視鏡検査を受けることはできないんです。

堀江 なるほど。

上村 最初に、「十二指腸潰瘍」「胃底腺ポリープ」「分化型胃がん」という医学的に異なった特徴を有する3つの病気について調べてみました。この頃、欧米ではすでに「十二指腸潰瘍はヘリコが主な原因」だと言われていたので、試しに十二指腸潰瘍になった人の組織を検査液にポチャってつけてみると2時間くらいで赤くなった。ヘリコがいる反応がすぐに出ました。

堀江 はい。

上村 次に、若くてきれいな胃に特徴的に認められる胃底腺ポリープでやってみると、これはまったく反応がでない。そして、最後に分化型胃がんの人の組織を検査液につけたら……これも胃底腺ポリープと同様にまったく反応がでませんでした。これには困りました。正常な胃にみられる胃底腺ポリープとがんで同じ反応ならば、がんにヘリコが関係しているということにはならない。

堀江 まあ、そうですよね。

上村 そうしたら、これも偶然なんですけれども、ある日、内視鏡室の机の上に胃底腺ポリープと分化型胃がんの組織を検査薬につけたまま忘れてしまったんです。翌日になって分化型胃がんのほうが、うっすらピンクになっていました。一方、胃底腺ポリープのほうはまったく変わっていなかったんです。

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堀江 へー。

上村 翌々日になると、分化型胃がんのほうはピンクから、さらに赤に変わっていた。それを見て「これは、胃がんとヘリコには関係があるかも」と思い、当時のヘリコの権威の教授にこの変化について報告すると「それはコンタミ(異物混入)だろう」と言われました。

堀江 異物が混じっていたために、赤くなったと。

上村 ええ。でも、僕はコンタミとは思えず、今度は、異なる検査方法、つまり、それぞれの患者さんの血液を血清抗体法で調べてみたんです。すると、胃底腺ポリープの患者さんはヘリコが全部陰性で、分化型胃がんの患者さんは全部陽性となりました。それで、やっぱり「胃がんとヘリコには何か関係がある」と確信して、さらに研究を進めたんです。

堀江 胃がんの人の組織は、なんで初日に反応がなかったんですか?

その3に続く

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Photograph/Edit=柚木大介 Text=村上隆保

上村直実(Naomi Uemura)
国立研究開発法人国立国際医療研究センター理事、国府台病院長(当時)。1951年生まれ。広島大学医学部卒業後、広島大学病院、呉共済病院などを経て、国立国際医療研究センター理事・国府台病院長に。ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がんの発症リスクとの関係を突き止めた臨床研究で知られる。日本ヘリコバクター学会副理事長、日本消化器病学会理事、日本消化器内視鏡学会理事、早稲田大学客員教授、北海道大学大学院客員教授。