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協立電機がSynQ Remoteを導入──AIと遠隔支援で技術継承の空洞化に挑む

属人化・人手不足・信頼維持という三重課題を、遠隔支援と知識資産化で乗り越える
本記事は、製造現場における“技術継承の未来”という社会的テーマに着目し、製造業の現場課題と遠隔支援ツールによる新たな解決策を整理する観点から取り上げたものである。

1. 現場では今、何が起きているのか──「教える人がいない」という構造的危機

引用元:日本産業の中長期的存続危機【問題編】https://www.glavis-hd.com/social_problem/000137/

熟練技術者の高齢化と若手不足。この二つの要因が重なり、製造業の現場では「教える人がいない」という深刻な課題が顕在化している。協立電機株式会社においても、制御システム設計や製造設備保守といった専門業務の現場において、技能の属人化や若手とのスキルギャップが慢性的なボトルネックとなっていた。

製造業の技術は、図面やマニュアルでは伝わりきらない感覚的な要素が多く、「電話で説明しても伝わらない」「写真では状況が判断できない」という声は以前から現場で指摘されてきた。また、全国の顧客拠点へ出張する負荷も大きく、現場の多忙化とも相まって、技術継承の空洞化が進む危険性が高まっていた。

こうした背景により、2025年7月、協立電機はクアンドが提供する遠隔支援ツール「SynQ Remote(シンクリモート)」を導入した。AIとリアルタイム映像を活用し、熟練者が持つ“暗黙知”を可視化するための基盤づくりが始まったのである。

2. 遠隔で“教えながら直す”──シンクリモートがつくる新しい現場の風景

従来、設備トラブルが発生した際には、若手が現地に向かい、状況が複雑な場合には熟練技術者が後追いで現場に赴く流れが一般的であった。しかし、シンクリモート導入後は、以下のような新しい対応体制が可能になった。

  • 若手技術者がスマートフォンで現場映像を共有
  • 熟練者が社内や別拠点からリアルタイムでサポート
  • 「ここを見せて」「このケーブルの接続を確認して」と具体的な指示が可能
  • 音・光・振動など“現場固有の情報”も映像越しに把握

映像越しの観察であっても、技術者は「どこを見るべきか」「何を疑うべきか」という思考プロセスを若手に逐一説明できる。この“教える”と“直す”が同時進行する構造こそが、従来の現場教育との大きな違いである。

協立電機の梅島氏は次のように評価している。

「現場に行かなくても、一緒に立ち会っている感覚があります。若手が“自分で解決できた”という成功体験を積めるのが大きいですね。」

この成功体験の積み重ねは、若手技術者にとって自信の獲得と学習の高速化につながり、現場対応の質を底上げする仕組みになる。

3. “即時対応”が信頼をつくる──営業・技術・顧客が一体になる現場力

シンクリモートの導入は、若手育成にとどまらず、営業から技術、顧客までをつなぐ連携体制の強化にも寄与している。

従来、顧客との打ち合わせ中に技術的質問が出た場合、営業担当は「後日確認します」と持ち帰ることが一般的であった。しかし、現在はその場でシンクリモートを起動し、社内の技術者を遠隔で呼び出すことが可能になった。
これにより、

  • 「今すぐ確認します」という迅速な応答が可能に
  • 対応品質の均一化
  • 顧客への信頼感の向上
  • チーム全体で学習する文化の形成

といった効果が生まれている。

現場とのリアルタイム連携により、従来の“属人的な判断”が“チームの知恵”へと変換され、対応力そのものが強化されていく構造が整いつつある。

4. AI議事録で知識が残る──「見えない知恵」を資産化する仕組み

2025年9月、協立電機はシンクリモートに実装された「AI議事録機能」の試験運用を開始した。遠隔支援中の会話や共有画面を自動で文字起こし・整理し、「どのような判断がどのように行われたのか」を記録する仕組みである。

この機能により、以下の効果が期待されている。

  • 技術者間の判断プロセスを可視化
  • 若手教育の教材として活用可能
  • 対応品質の均一化
  • 事後検証・再発防止策の強化
  • 暗黙知の形式知化

梅島氏は次のように語る。

「やり取りをあとから追えるので、現場の知恵が残ります。若手教育や品質管理に活かせる可能性を感じています。」

製造現場では、長年の経験から生まれる“微妙な違和感”や“判断の勘”が大きな役割を果たすことが多い。AI議事録は、こうした「消えていくはずの知恵」を記録し、組織の資産として蓄積する取り組みといえる。

5. 協立電機の企業像──60年以上、ものづくりの現場を支えてきたエンジニアリング企業

協立電機は、計測・制御・情報・電機・機械・分析・検査分野において、製造業の自動化と効率化を支えるエンジニアリング企業である。創業60年以上の歴史を持ち、「インテリジェントFA技術」を強みとし、生産現場から品質管理まで幅広い領域で課題解決に取り組んできた。

中長期的な人材不足が指摘される製造業界において、協立電機が遠隔支援・AI活用に踏み切った背景には、“技術を未来へ残す責任”という企業としての使命感がうかがえる。

6. SynQ Remoteが描く未来──「人が育ち、技術がのこる」ものづくりへ

クアンドが語るシンクリモートの価値は、単なる遠隔支援にとどまらない。それは、

  • 熟練者の感覚を若手に渡す仕組み
  • 現場の瞬間を記録し、知恵を未来に残す仕組み
  • 世代や距離を超えて技術を継承する仕組み

をつくるための挑戦である。

現場の判断は多くの場合、その場限りの“瞬間の知恵”として消えていく。しかし、シンクリモートはその瞬間を「残す」ことを可能にする。技術者同士の支え合い、成功体験の共有、そして技術の連続性。これらを一体で実現するツールとして、製造業の現場に新しい文化をもたらそうとしている。

7. クアンドという企業──レガシー産業のアップデートに挑むスタートアップ

株式会社クアンドは、「地域産業・レガシー産業のアップデート」を掲げる北九州発のスタートアップである。

同社は、経済産業省「J-Startup2023」選定企業であり、SaaS×リアル産業の融合に取り組む実績を持つ。2024年には宮崎県の建設関連企業をM&Aし、「現場」領域での価値創造に本格的に挑んでいる。

ZEROICHI編集部が注目したポイント

1. 製造業が直面する“技術継承の崖”に正面から向き合った事例である
社会全体の課題である「熟練者の高齢化」「若手不足」「技能の属人化」。その三つが重なる日本の製造業にとって、技術継承は喫緊のテーマである。本リリースは、その実態に対し具体的なソリューションを示しており、現場の課題を可視化する上で重要な示唆がある。

2. 遠隔支援が“教育の場”へ変わる構造が興味深い
遠隔支援はもともと“トラブル解決”の手段であった。しかし、SynQ Remoteは「教える」「直す」を同時に行う学習プロセスを創り出している点が特徴的である。教育と現場対応が融合する設計は、製造現場のDXとして注目すべきポイントである。

3. AI議事録による“知識の資産化”が、今後の製造現場DXの方向性を示している
AIが会話や判断を記録し、再学習可能な「現場知識のデータベース」をつくるアプローチは、製造現場におけるDXの進化を象徴している。属人化を防ぐだけでなく、品質管理・教育・再発防止の基盤にもなることから、継続的な生産性向上に寄与する可能性が大きい。

■ 原文リリース(参照)
原文リリース発表日付:2025年11月19日
 タイトル:技術の高度化が進む製造現場。協立電機がSynQ Remoteによる知識向上と技術継承を推進
 URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000084.000068726.html

※本記事は、上記プレスリリースから一部編集・要約して掲載している。誤解や偏りが生じる可能性のある表現については、原文の意図を損なわない範囲で調整している。