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「アルファ線で進行がんを抑える」 【東大・児玉龍彦教授が語る、がん治療最前線 その2】

堀江貴文氏は11月22日、東大の児玉龍彦氏を取材。「がん治療」の最前線などについて話を聞いた。(初回配信日:2016年11月22日)

アルファ線治療で、骨転移の患者の痛みが和らいだ

堀江 で、本題なんですけど、児玉さんは末期がんの患者さんにも使える新しい治療薬を開発しているとか。

児玉 はい。今、進行がんの治療で一般的なのは免疫療法です。一方、僕らはアイソトープ(放射性物質)を使った新しい治療方法を開発中です。アイソトープは「アルファ(α)線」「ベータ(β)線」「ガンマ(γ)線」とあって、アルファ線は、細胞を殺す能力が他に比べて圧倒的に高い。しかし日本では、これまでアルファ線の研究はほとんどされてきませんでした。

堀江 それは何でですか?

児玉 アルファ線は、例えばプルトニウムを原料とするので原爆を作れちゃうからです。核兵器作りができてしまう。それで、アルファ線の研究はベータ線に比べて20倍くらい規制が厳しくなっています。

堀江 なるほど。児玉さんがセンター長をしている東京大学アイソトープ総合センターは、どこの管轄になるんですか?

児玉 原子力規制委員会です。

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堀江 じゃあ、福島第一原発の事故以降、研究に対する風当たりは強いんじゃないですか?

児玉 いや、でも風当たりが強いっていうことは、関心を持ってもらえてるということですから……。

堀江 逆にいいんだ。

児玉 だって、昔だったらアルファ線、ベータ線、ガンマ線といっても、ほとんど理解してもらえませんでしたからね。

堀江 ああ。

児玉 実は、今年3月に塩化ラジウムを使ったアルファ線を放出する医薬品が初めて認可されました。日本ではアルファ線を放出する医薬品の“開発は規制が多く困難”だけれども、“治療薬は使うことができる”ようになったわけです。認可された薬は、前立腺がんの骨への転移の痛みを抑えることができる薬です。前立腺がんは80歳以上の男性の約3割がかかるといわれている病気で、現在、一般的には抗アンドロゲン剤で治療しています。

堀江 女性化が進むやつですよね。

児玉 はい。アンドロゲンは、男性ホルモンに依存している細胞を壊します。昔は良い抗アンドロゲン剤がなかったから去勢していました。

堀江 ああ。

児玉 睾丸をとって、男性ホルモンが出ないようにしていた。ところが抗アンドロゲン剤などで男性ホルモンが出ないように去勢抵抗性にすると、一部の人はがんが前立腺の外に出て、骨に転移してしまう。すると、その部分が腫れ上がって痛みがひどくなり、その痛みがどんどん広がっていく。また貧血になったりもする。

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堀江 血液の合成ができにくくなるんですね。

児玉 その時に、今回認可されたアルファ線を出す薬を注射すると、がんの痛みが取れて、骨転移の広がりが抑えられていく。最初は「アルファ線を使う薬なんてとんでもない」と言われていたんですが、臨床試験で痛みが減るなどの十分な効果があったので認可されたわけです。

堀江 この薬は、骨転移した患者さんのクオリティ・オブ・ライフ(quality of life/生活の質)はすぐに上がると思うんですが、予後はどうなんですか?

児玉 治療年数がまだ短いので、予後がどうなるかはこれから見ていかなければわかりません。寿命がどの程度伸びたかという研究は、これからやっていこうと思っています。

その3に続く

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Photograph/Edit=柚木大介 Text=村上隆保

児玉龍彦 Tatsuhiko Kodama

東京大学先端科学技術センター教授/東京大学アイソトープ総合センター・センター長 (当時) 。1953年生まれ。東京都出身。東京大学医学部卒業後、東大病院に医師として勤務。マサチューセッツ工科大学研究員を経て、1996年に東大先端科学技術センター教授に