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「アルファ線で進行がんを抑える」 【東大・児玉龍彦教授が語る、がん治療最前線 その3】

堀江貴文氏は11月22日、東大の児玉龍彦氏を取材。「がん治療」の最前線などについて話を聞いた。(初回配信日:2016年11月28日)

マーキング剤を2、3種類混ぜて、がんの幹細胞をほぼ全部捉える

堀江 がんは、やはり高齢の人が多いんですか。

児玉 そうですね。高齢の人はがんを治すということも大切ですが、それよりも現在の痛みをどれだけ抑えられるかがとても重要です。痛くて苦しい時期は、実はそれほど長くはありません。その時期に痛みが抑えられるとクオリティ・オブ・ライフはかなり高くなるし、がんに対する怖さも変わってくると思います。

堀江 ある意味、「寿命をまっとうする」ということですね。

児玉 骨転移は「痛い、苦しい、なんとかしてくれ」という方がやはり多いんです。麻薬などを使えばうまく抑えられることがあるかもしれませんが、痛みをコントロールするのが非常に難しい。それが、この薬によって寛解期が得られるというのは、とても大きなメリットだと思います。

堀江 なるほど。

児玉 それで、僕らが考えているのは、この仕組みを骨以外の違うがんにも使えないかということです。

堀江 放射性のラジウムは患部以外のところにも行くわけですよね。

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児玉 はい。がん細胞のところだけでなく、他の細胞にも行きます。ただ、がん細胞ではないところは、集積性が低いので時間が経つと分解されて無害なものになります。

堀江 がん細胞のある部分に特異的にラジウムが集まるんですか?

児玉 そうなんです。集まるんです。骨の中でも、がんの転移があるところに集まりやすい性質がある。

堀江 それはどうしてですか?

児玉 腫瘍親和性が何によって決まっているかは、実はよくわかっていません。アルファ線を出すラジウムは、たまたま骨のがん細胞に集まりやすいから認可されましたが、一般的にアルファ線を他のさまざまながん細胞だけに集めるのは非常に難しいことです。

堀江 でも、児玉先生は、それをやろうとしているんですよね。

児玉 そうです。ヒトゲノムはもう解明されているので、がんが特異的に出している抗原(がん細胞に存在する特有のタンパク質/がん細胞の目印)を見つければいい。ただ、例えば肝臓がんといっても、その抗原を出しているがんもあれば、出していないがんもある。抗原を出ているものを殺しても、出ていないものが残ってしまっては意味がないわけです。

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堀江 そうですね。

児玉 そのためにはマーキング剤を2、3種類混ぜたい。例えば、アメリカなどではC型肝炎の治療には2種類くらいの薬を混ぜています。ウイルスは変異が多いから、1種類だと効かないものも出てくる。それは、がんも同じ。

堀江 そうか。

児玉 ただ、日本は薬を混ぜて使うことに対するハードルが非常に高い。だから日本の製薬会社は合剤開発をあまりやりたがらないけど、アメリカでは混ぜて治療をしています。

堀江 HIVとかもそうですもんね。

児玉 はい。それから、ウイルスはどんどん変異していきますから、その変異を先回りして、変異に対応する薬を使うという意味もある。1種類だったら逃してしまうかもしれないけれど、2種類、3種類の組み合わせでやったら、がん細胞はかなり捉えられると思います。

堀江 そうですよね。

児玉 それから、薬が抗体にくっついたけれども、がん細胞を確実に殺したかどうか。これを「奏効率」っていうんですが、奏効率が何パーセントかも重要です。現在の抗体医薬品は、悪性リンパ種や白血病を除いた固形がんには効きにくいといわれていますから。

堀江 へー。

その4に続く

児玉龍彦 Tatsuhiko Kodama

東京大学先端科学技術センター教授/東京大学アイソトープ総合センター・センター長 (当時) 。1953年生まれ。東京都出身。東京大学医学部卒業後、東大病院に医師として勤務。マサチューセッツ工科大学研究員を経て、1996年に東大先端科学技術センター教授に