堀江貴文氏は12月21日、東京大学の杉山正和氏を取材。「未来のエネルギーシステム」などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年12月26日)
今後は再生エネルギーとしての水素がいろいろな場所で必要になってくる
杉山 畜電池って、すごく効率がいいんですよ。充電したり放電したりする時のエネルギーのロスは2割くらい。だけど、畜電池はものすごく値段が高い。今、家庭用の畜電池を導入している方も増えていますけど、それは非常用電源としての利用がメインのはずです。一般的な家庭の消費電力って、1日だいたい15kWhくらいなんですが、今の家庭用の畜電池は3~8kWh程度。ですから、前日に貯めておいた電気で今日1日を過ごそうとしても難しい。もし、1日分の電力を貯めておきたいならば、かなり大きな畜電池が必要です。今、導入されている家庭用の畜電池では足りません。
堀江 でも、確か日産リーフが……。
杉山 そうなんです。もし、どうしても1日分の電力を蓄電したいと思ったら日産の電気自動車「リーフ」に貯めることはできます(リーフは容量24kWhと30kWhのバッテリー搭載車がある)。ただ、問題はリーフに使うにしろ、家庭に置いておくにしろ、それだけ大容量の畜電池を大量に生産できるかということ。そして、できたとしても畜電池はそもそも値段が高いわけです(リーフと同程度の24kWhの家庭用畜電池は約1000万円するといわれている)。これを皆さんが買うかどうか。
堀江 そうですね。
杉山 そこで水素を使う燃料電池を利用しようという話になるんです。水素タンクはそれほど高くありませんし、タンクに水素を1年でも2年でも貯めておけます。ですから、大量のエネルギーを長時間貯めようということであれば水素の方が有利になる。ただ、問題は水から水素を作ろうとした時の効率が100%ではないこと。だいたい80%くらいになります。そして水素から電気を作るところで、また50%くらいのロスが出る。すると最終的には40%くらいになっちゃうんです。
堀江 うーん。
杉山 だから、太陽電池をメインに使って、コストは高いけれどエネルギーロスが少なくて困った時に数時間はしのげる畜電池を使いますか、それともロスをある程度受け入れたうえでコストが安くて長期間貯められる水素を使いますか、という“最適設計”の問題になるんです。
堀江 そうか。
杉山 あとは、日本全体の方針として太陽光エネルギーの利用を5割にしましょうとなった場合、現在の設置数では電力が全然足りないので、海外から電気を買ってくるしかない。その時に海外に設置された太陽電池で作った水素を液化したり、他の化学物質に変換したりして船などで日本に持ってくる方が、蓄電池で運ぶよりも楽なんです。
堀江 なるほどね。
杉山 結局、今後は再生可能エネルギー源として、水素がいろいろなところで大量に必要になってくることは間違いありません。太陽電池から水素を生成する際の変換効率が悪いと、ものすごく広い土地が必要になってくる。それならできるだけ土地を使わないように高効率にしたほうがいいじゃないですか。それで太陽光から水素を生成するのにどれくらい効率を上げられるのかという研究を僕らはしているわけです。
堀江 その結果が24.4%だったと。
杉山 はい。そして今、この数字が世界最高水準なんです。光触媒による水素生成はせいぜい数%ですから。
堀江 すごいですよね。
Photograph/Edit=柚木大介 Text=村上隆保
杉山正和(Masakazu Sugiyama)
工学博士、東京大学大学院工学系研究科准教授(当時)。1972年生まれ。静岡県出身。1995年、東京大学工学部化学システム工学科卒業。2000年、東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻博士課程修了。