WITH

光操作で冬眠誘導が可能に!?【筑波大学・櫻井武教授が語る「人工冬眠」、その後の研究 その3】

堀江貴文氏は2020年の12月に筑波大学の櫻井武教授を取材冬眠状態で救命率が上がる!?【筑波大学・櫻井武教授が語る「人工冬眠」 その1】)。冬眠や宇宙旅行、救急救命などについて話を聞いた。あれから約2年、その後の冬眠研究の進化とは?

人間が人工冬眠してタイムリープする未来へ。現実にクリアしないといけない問題とは?

堀江 Q神経って人間にもあるんでしたっけ?

櫻井 相当するものはあると思います。

堀江 なぜそう思うんですか?

櫻井 それは、魚類から哺乳類まですべての動物にあるからです。猿にもありますし。

堀江 じゃあ、あるでしょうね。もし、人工冬眠が可能になったとしたら、どれくらい寝ていることができるんですか?

櫻井 それは、どれくらい管理できるかによるでしょうね。今の状態でQIH(低代謝状態)になったとしても、その間は食べることができないので、栄養状態が問題になってきます。

堀江 じゃあ、冬眠状態になって数日たったら戻ってきて食べて、また冬眠状態になって、みたいな感じになればいいわけですか?

櫻井 それか、経管栄養みたいに血管から入れるとか。

堀江 排泄とかはどうなっているんですか?

櫻井 QIH中は、ほとんど排泄していないですね。腸管運動もほとんどありませんから。

堀江 腸の細胞の代謝とかも止まっているんですか? 例えば、小腸の細胞って、メチャクチャ入れ替わりが早いじゃないですか。

櫻井 ゆっくりにはなっていると思います。

堀江 じゃあ、腎臓とかも?

櫻井 そうですね。循環器系の機能がかなり下がりますから、腎機能も下がりますね。

堀江 血球とかは?

櫻井 血球は見たことないですが、心拍数が下がっているので、心拍出量(心臓が送り出す血液量)も下がります。ですから、手足などの抹消循環はかなり変わっているはずです。

堀江 すべてが遅くなっている?

櫻井 はい。自律神経系のバランスが普段とはぜんぜん違いますから。でも、私はそれが重要なことだと思っているんです。我々の体は低温に耐性がないと思われていた。だから、体温が下がって組織の温度が下がると、組織障害が起こると思われていたんですよ。でも、QIHを見るとそれは必ずしも正しくない。自律神経のバランスが低体温にチューニングした状態であれば大丈夫なんです。

堀江 なるほど。人間が人工冬眠できるようになるまで、あと何年くらいかかるんですかね。

櫻井 何をゴールにするかによって違うと思うんですが、人間の場合だと、希少疾患などの患者さんが、人工冬眠で助かる可能性が少し増えるかもしれないというような状況からスタートすると思います。

堀江 希少疾患ですか。

櫻井 希少疾患とか、脳外傷ですね。脳外傷に関しては昔から低体温療法を行なっていたんですよ。元F1レーサーのミハエル・シューマッハがスキー事故で頭部に重傷を負ったときにもやっていましたよね。これは代謝で障害が進んでしまうので、低温にして脳の代謝を下げるという考え方です。でも、先ほどもお話ししましたが、体温を下げると脳は体温を元に戻そうとするので、血糖値がすごく上がるとか、不整脈が起こるとか、血液の凝固の問題などリスクが結構ある。だから、低体温療法はあまりやらなくなっているんです。

堀江 リスクのほうが大きいからですね。

櫻井 はい。でも、QIHのような技術が人間に適応できると、低体温療法のメリットだけが享受できる可能性がある。何もしなければ死んでしまうような状況だったら、適応も可能なんじゃないかと思います。そして、その場合は脳のQ細胞を電極で直接刺激するなど侵襲的なアプローチになります。

堀江 それだったら、すぐできそうなんですか?

櫻井 そうですね。倫理的な問題をクリアしなければいけないですけど。

堀江 でも、技術的にはQ細胞はこの辺にあるとわかっているから、そこに電極を刺して刺激すればいいんですか?

櫻井 はい。

堀江 代謝が遅くなるということは、老化も遅くなるわけですか?

櫻井 それを確かめようとしているんですけど、老化も遅くなるはずです。

堀江 原理的にはそうですよね。でも、そうなると、人工冬眠するとタイムリープ(時間移動)的なことになりますよね。

櫻井 ええ。未来への一方通行ですけどね。

堀江 人工冬眠で10年間タイムリープする人とかもいそうじゃないですか。

櫻井 そうですね。

堀江 そうなると、法制度とかも変えなくちゃいけなかったりしますよね。いやー、人工冬眠の話はめちゃめちゃ面白いなあ。とにかく、少しでも早く実現してほしいです。本日はありがとうございました。

櫻井 こちらこそ、ありがとうございました。

その1はコチラ

この続きはメルマガで全文ご覧いただけます。登録はコチラ

Text=村上隆保

櫻井武(Takeshi Sakurai)
1964年、東京生まれ。筑波大学医学医療系教授、筑波大学「国際統合睡眠医科学研究機構」副機構長。1998年、覚醒を制御するペプチド「オレキシン」を発見。2020年、冬眠様状態を誘導する新しい神経回路を同定。研究テーマは「覚醒や情動に関わる機能の解明」「睡眠・覚醒制御システムの機能的・構造的解明」など。