液体金属を使った革新的な技術が、地球環境や宇宙探索の未来を変えることに着目しているゼロカーボンエネルギー研究所 准教授・近藤正聡。
堀江氏は、近藤准教授に、現在の開発と未来のプロジェクトについて聞いた。
- その1 2035年頃の建設開始が検討されている核融合炉。資源不足を補う、新たなエネルギーの開発へ
- その2 液体金属の反応性をヒントにした発想の転換とは?
- その3 液体金属が地球環境や宇宙の技術開発まで変えてゆく!? ←今回はここ
液体金属が地球環境や宇宙の技術開発まで変えてゆく!?
堀江 あの、これって海水だけじゃなくて、例えば、鉱山の排水にも使えるんじゃないですか?
近藤 そうですね。使えると思います。排水から資源を回収するだけでなく、汚染水をきれいにすることもできますから。
堀江 鉱山の排水って、今、大きな問題になっていますから、それが解消できますよ。
近藤 はい。それに鉱山の排水は、海水に比べて溶け込んでいる成分がシンプルなので、より簡単にできるのではないかと思います。
堀江 このプラントって、どのくらいで実用化できそうなんですか?
近藤 太陽熱を使ったプロトタイプはあと5年くらいはかかります。太陽熱で熱するために鏡を使うんですが、その鏡が十数メートルと大きなものなんです。だからコンテナには入らない。それを小型化するのにお金も時間もかかるんです。太陽熱ではなく電気を使った淡水化プラントなら開発費用も安くすみ、すぐにでもできます。
堀江 中東の国の王様とかなら、投資しそうですけどね(笑)。
近藤 投資していただけるとありがたいです(笑)。中東でなくても、日本に近いシンガポールやマレーシアなども水に困っているみたいですし。
堀江 そうですね。デモ用に1個作ってもらえれば、僕が中東に持って行きますよ。
近藤 本当ですか。ぜひ、お願いします。それから、液体金属の新しい用途は「核融合」「海水からの資源回収・淡水化プラント」のほかに、あともうひとつあるんですよ。
堀江 なんですか?
近藤 「宇宙の探索」といいまして、最近、アメリカが力を入れている分野です。これは堀江さんのほうが詳しいと思いますが、宇宙を観測する場合、地球に大きな望遠鏡を設置するよりも、空気の揺らぎのない月や宇宙空間に望遠鏡を置いたほうが観測はしやすいですよね。
堀江 そうですね。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡なんかがそうですから。
近藤 それで、液体金属を使って宇宙望遠鏡をつくろうという話になっているんです。大きな反射望遠鏡の主鏡は、放物面のある数十メートル級の鏡ですが、それをロケットに乗せて宇宙空間に持っていっても、破損したときにまたロケットで運ばなければいけないので、とても大変らしいんです。
堀江 確か、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、隕石が衝突して損傷を受けていましたよね。
近藤 それで、液体金属が使えないかということになっているんです。液体金属を放物面に入れて回転させると金属鏡になります。ただ、液体のままだとずっと回転させていなければいけないのと、傾けるとこぼれてしまうので真上しか観測できないという欠点があります。
堀江 そうですね。
近藤 そこで、太陽が当たっている時間は溶けて、それ以外の時間には冷えて固まるような液体と固体の状態を行ったり来たりできる金属鏡を開発しているんです。液体金属を鏡の土台となる構造物に充填して、回転させて鏡のような表面をもつ放物面をつくり反射鏡として使う。そして、もし宇宙線などでダメージを受けて反射率などが下がってきたら、液体金属を太陽面に向けて溶かしてメンテナンスする。そんな「リキットメタルスペーステレスコープ(液体金属宇宙望遠鏡)」を考えています。
堀江 へー。すごいですね。
近藤 たぶん、こうした開発をしている研究者は少ないと思います。
堀江 なんか液体金属って面白いですね。
近藤 そうなんですよ。
堀江 いやー、本日は貴重なお話を伺えてありがとうございました。
近藤 いえいえ、こちらこそありがとうございました。
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Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI
近藤正聡 (Masatoshi Kondo)
東京工業大学 科学技術創成研究院、ゼロカーボンエネルギー研究所 准教授
1979年生まれ。東京都出身。2006年、東京工業大学大学院理工学研究科原子核工学博士課程終了。その後、核融合科学研究所、総合研究大学院大学、東京工業大学原子炉工学研究所などをへて現職。核融合に関しては、文部科学省学術調査官や科学・技術審議会専門委員(原型炉タスクフォース)なども担当。液体金属を用いた海水淡水化技術は、マリンテックグランプリ2022最優秀賞を受賞。