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「人と人の間でテレパシーみたいに 一方の人の考えを読み出すことはすぐにできるかも」 【神経科学者・竹田真己が語る「神経回路」研究の最前線 その4】

堀江貴文氏は7月6日、神経科学者の竹田真己氏を取材。「神経回路研究」の最前線などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年7月13日)

人が考えていることを読み出すのは簡単。難しいのはそれを正確に相手の脳に移すこと

堀江 今のコミュニケーションって、視覚とか聴覚を使って、いわば糸電話で交信しているようなものだと思うんです。それが「脳と脳が光ファイバーで繋がりました」みたいな状況になると、いろんなことが一気に変わるんじゃないかな。

竹田 世界のこれまでのやり方が、大きく変わるでしょうね。

堀江 そうですよね。脳の電位活動みたいなものを他人にダイレクトに飛ばせるようにするだけで、テレパシーのようにいろいろなことができると思うんです。

竹田 そうですね。でも、実現するのはずいぶん先のことだと思いますけど。

堀江 研究者が自分で自分の脳に埋め込む分には、何の問題もないんじゃないですか。

竹田 いやいや、多分、研究者は自分には埋め込みたくないですよ。研究だけして、「埋め込むのは自分が一番最後」にって思っちゃうかもしれません(笑)。

堀江 「まずは自分から埋めたい」っていう研究者もいると思いますけど。それに、今の技術でもある程度できるんじゃないですか?

竹田 脳の情報を読み出すことは、結構できています。逆に外部の情報を脳に入れ込む研究は、まだ進んでいません。さきほど堀江さんがおっしゃった“人と人との間で、脳を光ファイバーでリンクさせてテレパシーみたいなことをする”時に、片方が考えていることを読み出すのは、すぐにできるかもしれないです。難しいのは、それを相手の脳に正確に移すことだと思います。

堀江 簡単にはいかないんですか?

竹田 たぶん、簡単には無理ですね。最初にも言いましたが、皆さんが想像するよりも、脳のシステムは複雑で難しいんです。もっと単純なシステムだったら、ある少数の法則さえ見つければその応用で多くがわかってくるかもしれないんですが。

堀江 複雑というのは、神経回路が複雑なんですか?

竹田 はい。回路が複雑ですね。

堀江 仕組み自体は単純なんですか?

竹田 いえ、仕組みも複雑です。例えば、ドーパミンを出す仕組みの中にタンンパク質が関係しているんですが、そのタンパク質が何十種類もある。さらに、そのタンパク質を作る遺伝子も山ほど関与しています。多くの条件のうち、何がどう噛み合って何が起きているのか……ひとつずつ丹念に調べないといけません。今、少しずつわかってきていますが、全体像まではまったくわかっていないですね。

堀江 何でそんなに複雑なんだろう? 世の中のしくみって、本当は単純だったりするじゃないですか。

竹田 神様にでも聞いてみたいですね(笑)。もしかしたら、200年後くらいにすごく天才肌の研究者が現れて、脳に関する単一の原理みたいなものを導き出すかもしれませんよ。「ああ、200年前の研究者が一生懸命やっていたけど、実はこんなに単純だったんだね」っていう時代がくるかもしれない。でも、今は誰もわからないから、自分ができる範囲のことをコツコツやるしかないんです。

堀江 先日、この対談で富山大学の井ノ口馨先生とお会いしたんですが、そこで記憶について面白い話がいろいろ出たんですよ。「人間のアイデンティティを作っている重要な機能は記憶なんじゃないか」。つまり、毎日ずーっと生きているという記憶の積み重ねでアイデンティティが生まれてきている。

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竹田 そうですね。私も、人を人たらしめているものは記憶だと思います。

堀江 井ノ口先生によると、記憶っていい加減なもので、自分で記憶を変えちゃうことができると。

竹田 はい。都合のいいようにね。

堀江 僕もよくわかります。人の記憶なんて、結構いい加減ですよ。だからこそ、非常に面白い。そんないい加減なもので、社会が動いているんだって。

竹田 曖昧なものの上に成り立っている感じがしますよね。

堀江 例えば、ソフトウェア的に記憶を変えられても、それに気づかない(笑)。

竹田 たちが悪いと思いますね(笑)。

堀江 ハハハ(笑)。たちが悪いけれど、だからこそ上手く機能しているとも言えませんか? 嫌な記憶は忘れるとか。

竹田 ああ、そうですね。そういうプラスの側面もあるかもしれない。

堀江 嫌な記憶を忘れられなかったら、かなり苦しいですよ。逆に、嫌な記憶をいい思い出に変えたり、忘れたりできるような人が、結構、幸せに生きてますよね。幸せに生きるためにも「記憶の研究」って、すごく社会的意義があると思うんです。

竹田 そうですね。そう言っていただけると本当に嬉しいです。まだ脳のことは全然わかっていないけれど、僕には知りたいことが山ほどあります。今は記憶の研究をしているけれど、別に記憶だけがすごく面白いと思っている訳ではありません。脳内のメカニズムをちょっとでも知るために、記憶というテーマを選んでいるんですよ。

堀江 そうなんですね。

竹田 脳は飛び抜けて面白いんです。脳の研究をしないんであれば、あとは何をやっても変わらないと思っているくらいです。それにテクノロジーが発達しているおかげで、数年前はできなかったことがどんどんできるようになってきている。今はそういう時代なんです。

その5に続く

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Photograph/Edit=柚木大介 Text=村上隆保

竹田真己(Masaki Takeda)
順天堂大学大学院医学研究科特任講師(当時)、神経科学者。1976年生まれ。静岡県出身。2005年、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了後、東京大学大学院医学系研究科特任講師を経て、現職に。