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「人と人の間でテレパシーみたいに 一方の人の考えを読み出すことはすぐにできるかも」 【神経科学者・竹田真己が語る「神経回路」研究の最前線 その5】

堀江貴文氏は7月6日、神経科学者の竹田真己氏を取材。「神経回路研究」の最前線などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年7月16日)

日本は基礎研究をもっと盛んにしたほうがいい。そうしないとアジア一番の座を中国に抜かれる

堀江 研究が飛躍的に進む条件って、何ですか? マンパワーなのか、予算なのか?

竹田 両方です。一番はマンパワーですが、マンパワーを得るためには予算がいりますから。

堀江 やっぱり予算は必要ですよね。

竹田 特に基礎研究は景気にすごく左右されてしまいますから。景気が悪いと国の予算が削減されるし、さらに政府の方針で「応用研究が大事」となると、ますます基礎研究はないがしろにされますし……。そういう予算とかマンパワーの意味で言うと、今は中国がすごいです。

堀江 そうなんですか。

竹田 恐ろしいほどのお金が投入されて、世界中から一流の研究者を引き抜いて、研究所をどんどん建ててますよ。

堀江 へー。じゃあ、学会の発表を見ると中国の研究が増えてきているんですか?

竹田 増えてきています。これまで研究という意味では、アジアでは日本が一番だったかもしれませんが、もうそろそろ中国に抜かれると思いますね。私は、自分がやっている記憶の研究に限らず、日本での基礎研究をもっと盛んにしたいんです。

堀江 それは、やっぱりマネタイズでしょうね。大学でやっている研究って、マネタイズできる部分が結構、あると思いますよ。

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竹田 研究所とか大学自体が、研究成果をお金に変えていくということですよね。

堀江 そういう部門を強化していかないと。基礎研究の中にも投資の対象となるようなシーズはあるけれど、情報が全然発信されていない。そういうところ、ぬるいと思います。

竹田 ぬるいですか。

堀江 ええ。日本のIT企業は、科学技術にあまり興味ない人が多いんですよ。だから、情報が発信されてないと何がすごいのか余計にわからない。お金をいっぱい持っていても科学技術の発展に寄与しようという考えは一切ない。

竹田 2008年にノーベル化学賞を受賞したGFP(緑色蛍光タンパク質)って、ご存知ですか? オワンクラゲが持つ、緑色に光るタンパク質です。もともとは「クラゲはなぜ光るのか?」ということを研究する中で見つかったものなんです。基礎研究中の基礎研究なんですよ。それが今では医学や生物学の研究のために世界中で使われて、ものすごいお金を生み出すツールになっているんです。基礎研究って、そういう博打的要素があるんですよ。

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堀江 それ、ひたすらクラゲをすりつぶして……みたいな話でしたよね。

竹田 そうです。基礎研究は、何が大きく化けるかわからないんです。だから、将来的にモノになるかわからないけれど、とりあえず国の予算を広く分散して先行的に投資していくことが必要じゃないでしょうか。例えば1万個ばらまいて、そのうちひとつでも芽が出れば、すべての投資金額は回収できると思うんです。

堀江 僕は、国という枠組みが、そういう長期的な投資には合わなくなってきていると思います。基礎研究って国を超えた人類共通の財産なんです。それを支えるには、国ではない別の枠組みが必要ですよ。

竹田 海外には、ハワード・ヒューズのように医学研究所を作り基礎研究に大金を投資してくれる大富豪がいますね。

堀江 パトロンですよね。そういう部分、すごく大事だと思います。これからは多国籍企業の創業者みたいな人たちが、そんな役割を負っていくんじゃないでしょうかね。本日は貴重はお話を伺えて大変よかったです。ありがとうございました。

竹田 ありがとうございました。

その1はこちら

Photograph/Edit=柚木大介 Text=村上隆保

竹田真己(Masaki Takeda)
順天堂大学大学院医学研究科特任講師(当時)、神経科学者。1976年生まれ。静岡県出身。2005年、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了後、東京大学大学院医学系研究科特任講師を経て、現職に。