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「気泡とプラズマで、がん細胞を死滅させる」【世界が注目する山西陽子氏の研究とは?その2】

堀江貴文氏は4月23日、芝浦工業大学の山西陽子(当時)を取材。世界が注目する研究について話を聞いた。(初回配信日:2015年4月23日)

新薬開発、がん治療、遺伝子導入へと広がっていく

山西 気泡がはじけるときに生じるエネルギーは、船舶の金属製のプロペラに穴をあけるほどの破壊力もあります。そのため機械工学科では、気泡は悪者になってしまうんですが、私たちはその破壊力を小さくして使っています。

堀江 なるほど。

山西 最初は、ここまでできたところで高周波メスやレーザーなどに代わる「気泡メス」を考えたんですが、試薬を気泡にまとって入れることが可能だとわかってから、ドラッグデリバリーや遺伝子導入を「高速・高精度・低コスト」で、できるんじゃないかと思いました。

堀江 試薬を気泡にまとう?

山西 ええ。気泡にはもともと静電気的な力があって、微生物用のピンセットくらいの付着力があるんですよ。この付着力を使うと液中で液体を数百μmくらい輸送することができます。

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堀江 へー。

山西 そして、そうしているうちに「成育中の植物に注射を打ちたいので、空気中でも打てるようなものを作ってほしい」というリクエストを受けて、メスではなく注射器作りを考え始めました。

堀江 そうだったんですか。

山西 今までシャーレの中で打っていたものを空気中に持っていくためには密着性が必要です。そこで、注射器の先端部を細胞に押しつけて試薬の液体を満たすことでシャーレ内と同じような状態を作り、その中で気泡を発射するという方法に至ったわけです。今までは電解質溶液の中でしか気泡が発射できなかったんですが、これからは空気中であろうと水中であろうと、イオンの濃度が低いものの中であろうと大丈夫です。そういった環境の中で生きている生物にも遺伝子導入ができる可能性が広がりました。

堀江 以前にも針なし注射器はありましたけど、先生の開発した針なし気泡注射とはどこが違うんですか?

山西 従来のものは、液体をものすごい高圧で皮膚にむけて発射するようなものでしたから、痛みがあったり、神経など身体の組織が傷つけられる恐れがあったんです。それに比べると、この注射器で気泡が細胞にあける孔はわずか4μmなので、安全でダメージが少なくてすみます。

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堀江 そうなんですか。

山西 今後はこうした技術に加え、プラズマを使ってよりパワフルに削る技術に発展させていきたいと思っています。例えば、気泡メスの電源の印加電力を上げると電気メスの時と同様にプラズマが走ります。すると、プラズマの破壊力とキャビテーション(短時間に気泡の発生と消滅がおこる現象)の破壊力の両方を併せ持った加工機ができる可能性が広がりました。プラズマを発生させながら気泡をぶつけると、ドリルなどと違ってカーボンファイバーや非金属のポリマーなども滑らかに削れるので、バイオへの応用もできます。それから、新しい薬剤を開発することへ貢献するためにタンパク質の結晶を作ることなども考えています。

堀江 結晶が作れるんですか?

山西 タンパク質の結晶を作るのはすごく難しい技術なんです。塩などの無機結晶と違って分子が大きいので、くっつきにくいんですね。これまでは蒸気拡散法という方法で作ってきたんですが、何千何万通りもの条件を組み合わせてやっと結晶ができるような状態であることが多かったようです。

堀江 そんなに大変なんですか。

その3に続く

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Photograph/Edit=柚木大介 Text=村上隆保

山西陽子(Yoko Yamanishi)
芝浦工業大学工学部機械工学科 准教授(当時)。2003年ロンドン大学インペリアルカレッジ機械工学科熱流体専攻Ph.Dコース終了。東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻 助教、名古屋大学大学院工学研究科マイクロ・ナノシステム工学専攻 准教授を経て、2013年より芝浦工業大学工学部にて准教授となり、山西研究室を開設する。科学技術振興機構の研究推進事業さきがけの兼任研究員。