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【大阪大学・東京医科歯科大学教授 武部貴則が語る再生医療の最前線 その1】

再生医療研究の分野で成果を上げている大阪大学大学院教授の武部貴則。
堀江氏は再生医療で注目されるリプログラミングについて、武部氏に、最新動向を聞いた。

エネルギー代謝を調整することで、老化予防の可能性が広がる

堀江貴文(以下、堀江) 武部さんは再生医療の研究をされていますが、今は「リプログラミング(細胞を未分化の状態に初期化すること)」が熱いですよね。「Amazon(アマゾン)」創業者のジェフ・ベゾスらが出資している「Altos Labs(アルトスラボ)」がすごいと聞きました。

武部貴則(以下、武部) そうですね。有名なリプログラミング研究者の多くが、アルトスラボに引き抜かれたみたいです。iPS細胞(人工多能性幹細胞)でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥先生も参加していると聞きました。

堀江 それぞれの役割に分化した細胞が元に戻るって、原理的にありえることですよね。

武部 ありえます。老化に関して面白い話があるんです。「Parabiosis(パラバイオーシス)」ってご存知ですか? 年老いたマウスと若いマウスの血管などの循環器系をつないで……。

堀江 あ、それ聞いたことがあります。

武部 すると、若いマウスから流れ込んできた因子で、年老いたマウスの老化が止まったり、機能が改善したり、寿命がのびたという結果が出たという話です。

堀江 すごいですよね。

武部 循環器系をつなげたときに何が交流しているかというと、血液中のタンパク質などの因子です。こうした因子はどこで作られているかというと、ほとんどが肝臓です。

堀江 はい。

武部 Meta社(旧Facebook)CEOのマーク・ザッカーバーグが出資している「CZI(Chan Zuckerberg Initiative)という研究所では、結合実験で肝臓と血液が重要だということを明確に示しています。

堀江 それはマウスレベルでですか?

武部 はい。

堀江 へー。

堀江 あと、僕の中で熱いのが“冬眠”なんです。

武部 冬眠もいいでしょうね。医薬品なども含めて慢性的な代謝疾患に関する治療法開発は全体的に、冬眠のようなエネルギー代謝を調節する研究や開発にシフトしていると思います。

堀江 そうなんですか?

武部 高齢化が進むと「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」やアルツハイマーなどが増えてきます。これらの疾患は“蓄積”がキーワードです。そして、これを改善するにはエネルギー代謝を調節して、ミトコンドリアの機能を高めたり、抑えたりすることが必要になってくる。こうした老化によって起きる劣化を調整する因子の開発が進んでいるんです。私も今、ミトコンドリアを調節する薬を開発中です。

堀江 ミトコンドリアを調節する?

武部 はい。ミトコンドリアは活動エネルギーを作っているんですけれども、ミトコンドリアの代謝が劣化して処理機能が下がり、活性酸素がたくさん作り出されて細胞にダメージを与えてしまう。それが老化の本質です。ですから、ミトコンドリアの代謝を調節すれば、老化が遅くなるのではないかと考えています。

堀江 なるほど。

武部 結局、アンチエイジング(抗加齢)的な薬は、どこに焦点をあてるかなんですよね。

堀江 確かにそうですね。僕が飲んでいる「SGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)阻害薬」は、血液中の余分な糖を尿と一緒に出して血糖値を下げる薬です。腎臓の先生も「僕も飲んでます」って言ってました。

その2に続く

東京医科歯科大学大学院教授、大阪大学大学院教授                       武部貴則(Takanori Takebe)
1986年生まれ。神奈川県出身。2011年、横浜市立大学医学部卒業。専門は再生医学。2013年に世界で初めてiPS細胞を使ってミニ肝臓を作ることに成功。2017年、横浜市立大学医学部教授。2018年、東京医科歯科大学教授。2019年、東京医科歯科大学大学院教授。2023年、大阪大学大学院教授。