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「遺伝子操作で人間の脳を持つ動物を作ることは可能」 【東京医科歯科大・田中光一が語る ゲノム編集の最前線 その3】

堀江貴文氏は7月27日、東京医科歯科大学の田中光一氏を取材。「ゲノム編集」の最前線などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年7月30日)

遺伝子治療によってHIVは完治可能

堀江 それで、狙った遺伝子に正確にDNAを挿入する技術というのは?

田中 細菌はファージから自分たちを守るための免疫システムのようなものを持っています。その仕組みは、一度感染したファージのDNAを細かく切断し自分のDNAの中にその組み込んでおいて、次に同じファージが感染したら、その細かく切断したDNA配列を用いてファージを壊すシステムです。

堀江 それは、どうやって壊すんですか?

田中 ファージのDNAを切断するんです。

堀江 へー。

田中 細菌は、自分のDNAは切断せずに、ファージのDNAのみを切断するシステムを持っています。それは、「Cas9」というDNAを切断する蛋白質とCas9をファージのDNAに誘導するガイド役のRNA(ガイドRNA)からなるシステムです。細菌は、自分のDNAに組み込まれたファージのDNAをもとにガイドRNAを作るので、Cas9はファージDNAだけを切断します。この細菌の防御システムを応用したのが、ゲノム編集技術の一つである「CRISPR/Cas」というシステムです。

堀江 それって、ほかのウイルス感染への治療法とかにも使えそうですよね。

田中 もちろんです。ひとつの応用としては、そのウイルスが持っている特定の配列にRNAを合成して、それと伴に、Caas9を導入すれば、特定のウイルスのみを破壊することができます。

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堀江 例えば、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とか……。

田中 そうです。それは今、治験段階に入っています。

堀江 じゃあ、2、3年以内には完治しちゃうかもしれませんね。

田中 その可能性はありますね。

堀江 HIVの場合は、どうやっているんですか?

田中 HIVウイルスがT細胞に感染するとき、T細胞の持つccr5というレセプタが必要です。だから、cccr5を欠損させれば、HIVに対抗できるというアイデアです。

堀江 なるほど。

田中 HIV患者から取り出した血球系の細胞に対して「CRISPR/Cas」システムを作用させ、cccr5遺伝子を壊します。そして、再びその細胞を患者に戻します。その結果、HIVが感染できるT細胞が減り、HIVの増殖が抑えられ、T細胞の減少も抑えられます。既に、少数例では成功したという報告があります。

堀江 「CRISPR/Cas」みたいなシステムって、人間は持ってないんですか?

田中 持ってないです。

堀江 なんで持ってないんですかね。

田中 もっと高度な「T cell(T細胞)」「B cell(B細胞)」などの免疫システムがあるからじゃないですかね。

堀江 もしかしたら、昔は持っていたけれども退化していったのかなあ。

田中 どうでしょう(笑)。

堀江 こうしたゲノム編集は、かなりの精度で成功するんですか?

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田中 かなりの精度ではあるんですけれど、やっぱりミスはあります。「オフターゲット」といって、ターゲットと違うところを切ってしまう場合が、頻度は少ないけれども、ある。

堀江 それは、どうして起こるんですか?

田中 だいたい、20塩基くらいの長さのガイドRNAを用いてCas9を標的に誘導するのですが、我々の持っている31億塩基の遺伝子の中には、ガイドRNAと1塩基違う配列がいくつかあります。

堀江 そうでしょうね。

田中 それで間違ってしまうこともある。だから、遺伝子治療を人に応用するためには、極限までオフターゲットを少なくしないといけないんです。

堀江 そのためには、どういう工夫をするんですか? 組み合わせを長くするとか?

田中 とりあえず、実験では長くしますが、長いと逆にオフターゲットの候補も増えてくるわけです。

堀江 そうですよね。でも、一応、ゲノム解析されてるわけだから……。

田中 我々がやる時は、「この遺伝子をターゲットにする場合、オフターゲットになる候補がどれくらいあるのか」というデータを出してくれるソフトを使っています。一番オフターゲットが少ないものを選んで設計しているのですが、それでもやっぱりゼロではないんです。

堀江 DNAを切って、そこに別のDNAを挿入する時は、どういうふうにやるんですか?

田中 それは、挿入したいDNAを一緒に入れておきます。

堀江 そうすると勝手に、切ったところにくっつくわけですか?

田中 「相同組換え」という仕組みが働くと、挿入したいDNAが目的の場所のDNAと入れ替わります。相同組換えは、似た配列を持ったDNA同士が入れ替わる現象で、通常は低い効率でしか起こらないのですが、ゲノム編集によりDNAが切断されると、高い効率で起こり、それを利用します。

その4に続く

田中光一(Kohichi Tanaka)

東京医科歯科大学難治疾患研究所・教授、医学博士。1958年生まれ。新潟県出身。新潟大学にて医学博士取得後、1998年東京医科歯科大学教授、1990年東京医科歯科大学大学院教授。