再生医療研究の分野で成果を上げている大阪大学大学院教授の武部貴則。
堀江氏は再生医療で注目されるリプログラミングについて、武部氏に、最新動向を聞いた。
- その1 エネルギー代謝を調整することで、老化予防の可能性が広がる
- その2 きっかけは父の肺の不調。消化管からのガス交換に注目し「EVA法」を発表
- その3 酸素濃度を高める新たなルートに着目。意識障害や慢性疾患予防にも期待 ←今回はここ
酸素濃度を高める新たなルートに着目。意識障害や慢性疾患予防にも期待
武部 あと、一般の方で一番問い合わせが多かったのはランナーでした。体に酸素を多く取り入れるともっと早く走れるのではないかと考えているみたいですね。
堀江 それ、僕も飲んでみたいです。今、新型コロナウイルスが注目されていますけど、肺炎で多くの人が亡くなっているじゃないですか。そう考えると、お尻から酸素が入れられるってすごいですよね。肺が動かなくても大丈夫なわけですから。
武部 そうですね。高齢者向けにはいいかもしれませんね。バックアップ的意味で使えると思います。
堀江 確かに。
武部 あと、僕らは呼吸器以外の疾患の治療も試みていて、通常とは違うルートで酸素濃度を高めることもできるんです。
堀江 どういうことですか?
武部 例えば、肺で呼吸をしていると、肝臓は消化管を通った後の血液が流れるので酸素濃度は低いんです。そんなときにお尻から酸素を入れると、肝臓を通る血管に酸素が多くいくことがわかりました。肝臓が障害を受けていたり、お酒を飲みまくってダメージを受けているときは、回復のために酸素がたくさん必要になる。こんなときに役に立つかもしれません。
堀江 じゃあ、それをやると二日酔いがすぐ治るんじゃないですか?
武部 検証はできていませんが、ありえるかもしれません。
堀江 あと、もしかしたら脂肪肝になりにくくなるかもしれませんね。
武部 今後、そうした検証をしたいと思っているんです。脂肪肝は慢性的に低酸素状態だと言われていますから。
堀江 それ、飲んでみたいなあ。
武部 他にも、CO2が下がるので「CO2ナルコーシス(二酸化炭素が体内に蓄積されて起こる意識障害)」に使えるかもしれません。まだ検証していないんですけど、別の物質を吸収する性質があるかもしれないので、血液中に悪いものが溜まったときにそれを除去することが腸を介してできるんじゃないかなとも思っています。
堀江 そうなったら、電気ショックのAED(自動体外式除細動器)の隣にその液体を置いてほしいですよね。
武部 そうですね。救急車の中でできることは限られていて、すぐに人工呼吸器につなぐことは難しい。ですから、救急車の中に常備してもらえれば、病院に到着するまでの7、8分間の間に心肺停止にならないようにすることができるかもしれません。
堀江 それ、すぐにやってほしいです。
武部 ただ、こういった救急車の中での利用に関しては、治験のデザインを組むのがとても難しそうなんですよ。ですから、まずは病院内での利用に関して治験を行います。また、国際的には企業主導で製品化していく流れに、ヒト・モノ・カネなど様々なリソースが迅速に集まるので、そのあたりが日本でも改善されるといいと思うんですが……。
堀江 EVA法の治験はいつ頃から始められそうなんですか?
武部 たぶん、夏ぐらいからは始められると思います。
堀江 じゃあ、その時はぜひ、僕にも飲ませてください。
武部 本当ですか。ありがとうございます。
堀江 本日はいろいろなお話が聞けてとても面白かったです。どうもありがとうございました。
武部 こちらこそ、ありがとうございました。
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東京医科歯科大学大学院教授、大阪大学大学院教授 武部貴則(Takanori Takebe)
1986年生まれ。神奈川県出身。2011年、横浜市立大学医学部卒業。専門は再生医学。2013年に世界で初めてiPS細胞を使ってミニ肝臓を作ることに成功。2017年、横浜市立大学医学部教授。2018年、東京医科歯科大学教授。2019年、東京医科歯科大学大学院教授。2023年、大阪大学大学院教授。