堀江貴文氏は8月10日、理化学研究所の辻孝氏を取材。「再生医療」の最先端などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年8月14日)
「臓器培養システム」で臓器を復活させることが可能に
堀江 今後は、もっと高度な臓器再生をやっていくわけですか?
辻 そうですね。3次元化は不可欠だと思っています。例えば、細胞をひとつの部屋だとすると、人間の臓器は1万階建てとか10万階建て以上の高さのマンションになります。そして、そのひとつひとつの部屋に出入りしようとしたら通路が必要だし、生活をするには上下水道や電気も必要です。その通路や水道が、神経だったり血管だったりするわけですが、それをすべて再構築していかなければいけない。
堀江 先日、横浜市立大学の武部貴則先生のところに行った時に、その話は少しお伺いしました。
辻 ああ、そうですか。僕らはその3次元化の基礎研究をやっているんです。どうやったら、3次元の臓器を育てられるのか。
堀江 「臓器培養」ですね。
辻 そうです。今、臓器移植を待っている患者さんは、世界中にたくさんいますよね。現在の臓器保存の方法は、臓器に保存液を入れて氷で冷やすというものです。この方法だと「保存時間」「運べる時間」が限られるんです。だから、運ぶ時間を少しでも伸ばそうといろいろな機械を作っているんですけど、まだ十分ではない。
堀江 そうでしょうね。
辻 今、心臓が停止した人から心臓を取り出して、それを別の人に移植できる時間って、どのくらいだと思いますか?
堀江 7、8時間くらいですか?
辻 わずか7分です。
堀江 そんな時間しかもたないんですか……。
辻 ええ。例えば、病院で「心停止」した方がいたとして、その亡くなった方の家族が「お父さんはもう戻ってこない」「死んでしまった」と自覚するのにはある程度の時間が必要ですよね。心停止して数分だったら、「もしかしたら、まだ戻ってくるんじゃないか」と思っているはずです。それが1時間経ち、1時間半経っていくうちに、「ああ、やっぱりお父さんは亡くなったんだ」と納得するわけです。
堀江 そうでしょうね。
辻 そうすると、いま心停止した人の臓器を使うことはなかなかできませんが、臓器を蘇生して使えるようにすると移植できる患者さんの灌図を増やすことができます。一方、「脳死」の人の場合は血液が循環しているので、その間に阻血(血液が止まる状態)にならないようにして臓器を取り出せば移植できます。これが脳死ドナーです。
堀江 じゃあ、臓器移植する場合は、ドナーを連れて行っているんですか?
辻 いや、臓器を取り出して、臓器の中に残っている血液を臓器保存液に置き換えて、それを氷詰めにして運んでるんです。よく、ニュースなどでアイスボックスをヘリコプター運んでいるようなシーンがあるじゃないですか。まさに、あれです。
堀江 ああ。
辻 でも、脳死ドナーの方は限られています。もし、心停止した方の臓器を十分な時間の経過後にいただいて、それを復活させることができたらすごく役にたちますよね。
堀江 そうですね。
辻 そこで私たちは、生体の血液循環を再現できる「臓器灌流培養システム」を開発して、1時間半心停止した動物から肝臓を取り出して、この機械を使って臓器を完全復活させることに成功したんです。
堀江 それは、なんで成功したんですか?
辻 ポイントは2つあります。ひとつは「22度という保存温度」。この温度が生命を維持はするけれども、機能を発現するほど代謝が活発ではないという温度です。生存のためのギリギリの温度は人間の場合20度だと言われています。例えば冷たい海に落ちて、直腸などの深部体温が19度になるともう助けることはできず死んでしまいます。2006年に六甲山で遭難した人が1ヶ月後に生きて発見されたということにがニュースになりましたよね。その方の見つかった時の体温が26度だったんです。この人は3週間ほど昏睡状態で、飲まず食わずでおしっこもしないで生きていた。ということは、人間は一定の温度を保てば飲まず食わずでおしっこもせずに生きてられるんです。
堀江 それが22度だと。
辻 20度から25度と言われています。
堀江 その温度だと冬眠ができるということですか?
辻 そうですね。
辻孝(Takashi Tsuji)
理化学研究所多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームリーダー。1962年生まれ。岐阜県出身。新潟大学、新潟大学大学院、九州大学大学院を卒業後、日本たばこ産業研究員を経て、2001年に東京理科大学助教授。2007年に東京理科大学教授。2014年から現職に。京理科大学客員教授、東京歯科大学客員教授、九州大学非常勤講師。