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パーキンソン症状の改善へ大きな期待【堀江貴文✕京都大学・iPS細胞研究所 高橋淳所長 iPS細胞で進化する、パーキンソン病治療の最前線 その3】

京都大学のiPS細胞研究所で現在所長を務める高橋淳。 堀江貴文氏は、高橋淳所長から、日本でのiPSの応用について、現在行われている最新の臨床試験の話を聞いた。

サルで改善例も。iPS細胞から作られたドーパミンの神経細胞に大きな期待

高橋 パーキンソン病は進行性なので、だんだん悪くなっていきます。ですから、効き目もだんだん悪くなっていく。私は脳外科医として電極を埋める手術をやって、たくさんの患者さんを見続けてきました。最初は「効いた、効いた」と喜んでいただけるんですけど、年月が経つとやはり悪くなっていくんです。ですから、ドーパミンをつくる細胞が減っていくという根本的な部分をなんとかしたいと思って、臨床医から研究者になったんです。

堀江 じゃあ、その黒質に直接、iPS細胞を投与するんですか?

高橋 いえ。黒質は脳の奥の手術が非常に難しい場所にあります。もちろん、黒質に針を刺して、直接細胞を移植することはできますが、実際にドーパミンが必要なのは黒質につながっている線条体なので、そこにiPS細胞から作製したドーパミンをつくる神経細胞を植えています。

堀江 どれくらい植えるんですか?

高橋 それもなかなか難しくて、まだ正解がわかっていないんですよ。私たちは最初の3例には500万個のドーパミン神経細胞を移植しました。そして、腫瘍ができるなどの変化がなかったことを確認して、4例目から1000万個植えています。

堀江 その移植手術は、CT(コンピュータ断層撮影)を見ながら針を刺す感じですか?

高橋 MRI(磁気共鳴画像)ですね。3次元のMRI画像を見ながら、ターゲットに移植するにはどの方向から何ミリ進めればいいかを前もってシミュレーションするんです。そして、その通りに手術します。

堀江 じゃあ、手術はすぐ終わりますね。

高橋 そうですね。でも、ミリ単位の細かな計測をする必要があるので、朝から始めて終わるのは午後3時くらいです。

堀江 最初の人の手術が終わってから、もう1年くらいはたっているんですか?

高橋 最初の方は2018年の10月に手術をした (※2)ので、もう4年以上は経っていますね。

堀江 今、どんな感じなんですか?

高橋 それが、私は患者さんに接触できないんですよ。私が患者さんやその担当医に会うとプレッシャーを与えるので、会ってはいけないことになっているんです。

堀江 あえて公平にしているんだ。

高橋 そうですね。例えば、私が患者さんに「どうですか、よくなりましたか?」と聞くと、患者さんは「はい」って言わないといけないと感じちゃうかもしれませんので。

堀江 そうでしょうね。でも、来年になると結果がわかるんですよね。

高橋 はい、来年になればわかります。

堀江 もし、すごくいい成果が出たら、パーキンソン病は治るってことになりますよね。

高橋 そうですね。治るというより、症状の改善が期待できます。

堀江 勝算はどうですか?

高橋 私は効果を信じていますよ。

堀江 マウスの実験ではどうだったんですか?

高橋 マウスというか、私たちはサルの実験までやっています。

堀江 サルではどうなんですか?

高橋 サルでは症状が良くなって細胞の生着も確認できています。

堀江 じゃあ、希望が持てますよね。10個のドーパミンをつくる細胞のうち、7、8個くらいが良くなったら、普通の生活ができるようになりますもんね。

高橋 そうですね。そこを目標にやっています。少なくとも人の手を借りなくてもいい生活、自分のことは自分でできるくらいの生活には持っていければと思っています。

堀江 来年の結果が待ち遠しいですね。本日はどうもありがとうございました。

高橋 こちらこそ、ありがとうございました。

※2参考:「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」における第一症例目の移植実施について」

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Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

高橋淳(Jun Takahashi) 京都大学iPS細胞研究所所長
1961年、兵庫県出身。京都大学iPS細胞研究所所長。1993年、京都大学大学院医学研究科博士課程修了後、京都大学医学部附属病院に勤務。2007年、京都大学再生医科学研究所生体修復応用分野准教授、2012年京都大学iPS細胞研究所教授、2022年、京都大学iPS細胞研究所所長

 

https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/181109-120000.html