株式会社BiPSEE(代表取締役CEO:松村雅代)は、高知大学医学部附属病院との共同研究において、うつ病に対するVRデジタル療法(以下、VRx)の特定臨床研究を完了した。
この研究は、標準治療では効果が不十分な大うつ病性障害(MDD)患者に対し、VRxの追加効果を探索的に評価するランダム化比較試験であり、主要評価指標であるHAM-Dスコアの有意な減少が確認された。今後は本格的な治験フェーズへの移行を見据えた準備に入る。
背景:薬物以外の“第三の治療軸”が必要とされる理由
うつ病は世界で3億人超が罹患し、経済的損失は約250兆円に及ぶとされる。現在主流の抗うつ薬は、初期投与での寛解率が約30%にとどまり、再発率も高い。特に「反すう」と呼ばれるネガティブ思考の反復傾向が強い症例では、薬物療法の限界が指摘されてきた。
認知行動療法(CBT)やメタ認知療法が有効である一方、導入障壁の高さや臨床現場での普及率の低さ(日本では6.2%)が課題となっていた。こうした背景のもと、BiPSEEが開発するVRxは「反すうの可視化と脱却」を軸とした、デジタルならではの介入手法である。
VR×行動療法:3つの中核機能
VRxの構成は、以下3点を柱としている。
- 認知・メタ認知の学習支援:反すう焦点化認知行動療法に基づいた8週間プログラムにより、思考パターンの再構築を促す。
- VRによる“心理的距離”の創出:VRとアプリを用いたインタラクティブ体験を通じて、ネガティブな感情との関係性を“見る・ほどく・変える”プロセスへ導く。
- 自宅での自己実践:自己学習設計により、通院時間外も治療プロセスを継続可能とし、医師の負担軽減と治療の密度向上を図る。
臨床試験の概要と今後の展望
本研究は、高知大学主導による特定臨床研究(jRCTs032220713)として、47症例を対象に実施された。介入群はVRx+薬物治療、対照群は薬物治療単独とし、8週間の介入と4週間の追跡評価を実施。主要評価項目は、HAM-Dスコアの変化量であった。
研究結果の詳細は学会発表・論文発表にて順次公開される予定であり、現時点では探索的試験としての安全性と有効性のシグナルが得られた段階にとどまる。
BiPSEEは今後、より大規模な多施設治験に向けて準備を進めており、保険適用を視野に入れた医療機器プログラム(DTx)としての実装を目指す。
ZEROICHI注目ポイント:
- 社会性の高いテーマ設定:「反すう」へのアプローチは、医療だけでなくビジネスパーソンや学生にも広く通じる心理課題であり、汎用的関心が高い。
- VRと医療の本格融合:VRが一過性のエンタメを超え、医療ガイドラインに則った臨床実証へと進化している点に注目。
- 自宅治療時代への布石:医師の負担軽減と、通院空白時間の“治療時間化”という文脈は、今後の医療DXのキーワードとして注視すべき流れである。
【参考リンク】
株式会社BiPSEE:
https://bipsee.com
※本記事は、原文から一部編集・要約して掲載しています。