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「培養肉」に 「ひも状組織」【東大生産研・竹内昌治氏が語る “細胞でのモノ作り”とは?その3】

堀江貴文氏は9月14日、東京大学生産技術研究所の竹内昌治氏を取材。「細胞でのモノ作り」などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年9月18日)

ひも状組織を作れば、細胞移植が簡単になる

竹内 このようにいろいろな細胞を使って3次元の“小さなモノ作り”をやろうとすると、やはり基本となるユニットを作らないといけない。じゃあ、その基本となるユニットは何かと言うと「点形」「線形」「面形」なわけです。この3種類のブロックがあれば、どんな形のものも作れます。

堀江 そうですね。

竹内 これは“線のモノ作り”でできている組織です。髪の毛の直径と同じくらい(100ミクロン=0.1mm)のチューブの中に細胞を敷き詰めて培養すると、細胞同士がくっついてひも状のものができます。それが今は100mくらいの長さのものまで作れるようになりました。体の中にはひも状の組織って結構あるんですよ。神経、血管、筋肉もそうです。そういうものを作る時のテンプレートになる。

堀江 ああ。

竹内 細胞のひとつの大きさって、だいたい10ミクロン(=0.01mm)です。それに対して、このチューブ容器には直径100ミクロンの空間があるので、細胞は立体的に3次元で増えていきます。3次元培養系です。実は、細胞の3次元培養というのはなかなか難しい。細胞を大きな空間の中で培養するとどんどん増えて大きく膨らみますよね。でも、大きく膨らむと血管がなければ養分が中のほうまで届かなくなり、1、2日経つと死んでしまう。

堀江 そうでしょうね。

竹内 ところが僕らの3次元培養系は、ひも状になっているので、両側に長くなっていくだけで直径は変わらないから、養分がちゃんと中まで届く。それで1、2年ほど保つことができるんです。

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堀江 すごい。

竹内 あと、ひも状だとチューブの中に入れて、出したり引っ込めたりということが簡単にできる。使いたい時に使いたい分だけピューッと出すことができたり、チューブから出して軽く引っ張るとテンションを加えることができる。細胞でこうした扱いやすさなどは考えられなかったんですが、それができるわけです。

堀江 ああ。

竹内 さきほど糖尿病の話をしましたが、糖尿病の患者さんは膵臓の機能が失われて血糖値が高くなり、インスリンが出なくなります。そこで、インスリンを出すβ細胞をひも状にして膵臓の皮膜にギューっと押し出して移植すると、血糖値が元に戻るんです。今はマウスの段階ですが、120日くらいその状態が続いています。ひも状なので、決められた位置に決められた長さを低侵襲で移植することが比較的簡単にできるんです。

堀江 すごいですね。

竹内 あと、“異種細胞も免疫系のガードがついた状態で入れられる”というのもあります。

堀江 どういうことですか?

竹内 例えば、他人の細胞を自分の体の中に入れても免疫システムでやられちゃうじゃないですか。

堀江 やられちゃいますね。

竹内 でも、僕らのは組織を半透膜性のあるハイドロゲルでコーティングしてあるので、防ぐことができると期待されています。

堀江 あ、そうなんですか? ブロックしてくれるんですか?

竹内 はい。ブロックしてくれるポテンシャルがあるんです。ひも状にすることで、圧倒的にハンドリングしやすくなるし、実は機能もあがるんじゃないかと僕は思っています。

堀江 いろいろ応用できそうですね。糖尿病の患者さんはこの技術で結構、救われるかもしれないですね。

その4に続く

竹内昌治(Shoji Takeuchi)

工学博士/東京大学生産技術研究所教授/ERATO竹内バイオ融合プロジェクト研究総括(当時)。1972年生まれ。東京都出身。1995年、東京大学工学部卒業。2000年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。ハーバード大学客員研究員などを経て、2008年、東京大学生産技術研究所バイオナノ融合プロセス連携センター・センター長に。2014年、東京大学生産技術研究所教授。