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線虫が検知できる「がんの匂い」【理学博士・広津崇亮が語る がん検査の未来とは? その3】

堀江貴文氏は10月10日、理学博士の広津崇亮氏を取材。がん検査の未来について話を聞いた。機械では検知できない「がんの匂い」を線虫がわかる理由とは?(初回配信日:2017年10月23日)

機械よりも線虫の嗅覚のほうが優れている

堀江 そこで、今回の対談のメインのお話になりますが、広津さんは「線虫でがん細胞を検知する」という研究をされていると。

広津 がん細胞というか、「がんの匂い」を検知できるんです。以前、がん探知犬を研究していた医師と話をしていたら、「犬を使って尿や血液からがんを検知することができる。でも、実用化は難しいだろう」ということでした。理由は犬の集中力の問題で、1日に5検体くらいしか調べられないためと。

堀江 なるほど。

広津 今、「がん検査を受けなくてはいけない人」「がん年齢に達した人」は日本人だけでも6,000万人くらいいます。それらの人が1年に1回検査を受けたとして、いったい何匹の犬をそろえればいいのか。

堀江 物理的に無理だと。

広津 そこで私は「犬はダメでも、線虫ならいけるかも」ということで、研究を始めたのが今から4年くらい前。そして、その2年後に「線虫による尿を使ったがん診断」の論文を提出して、それからはずっと実用化を考えていました。

堀江 1滴の尿でがんかどうかがわかるとのことですが、尿を入れたら線虫がどうなるんですか?

広津 シャーレに尿を入れたら、がん患者だと線虫が寄って行きます。健常者であれば逃げて行きます。それだけのことです。ただ、1回の検査だけでいいかというとそうではなくて、やはり生物なのでブレがあるんです。ですから、同じ条件で何度も繰り返し解析して、平均値を取る。そのため、結構な時間がかかるんです。

堀江 線虫は尿に微妙に寄っていくみたいな感じなんですか?

広津 例えば、線虫が100匹くらい入っているんですけれども、100対0になることはなくて、60対40とかに別れるんです。そういった微妙な解析を繰り返します。

堀江 微妙ですね。

広津 がんの匂いが好きといっても、人間の匂いは嫌いなので、好きな匂いと嫌いな匂いが混ざっている状態なんです。

堀江 人間の匂いは嫌いなんですか。

広津 そうですね。

堀江 でも、がんだと寄っていく。がんの匂いって、具体的にどんな匂いなんですか?

広津 それがわかっていないんです。

堀江 わかってないんですか(笑)。

広津 がんの匂いを研究している人は、世界中に山ほどいるんですけど、誰もがんの匂いに行き着いていない。

堀江 へー。

広津 おそらく、機械では検知できないからだと思います。我々もがんの匂いを同定しようとしているんですが、機械だとピークが表れないんです。でも、機械よりも線虫の嗅覚のほうが優れているので、線虫にはわかる。

堀江 それは、犬も感じているんですか?

広津 機械よりも犬のほうが優っているので感じているはずです。

堀江 犬はどういう反応をするんですか?

広津 5個くらいサンプルを並べておいて、その中にがんの人の尿を混ぜておくと、その前に座るようです。

堀江 へー、めっちゃアナログですね(笑)。

広津 そんな感じなので、1日に5検体くらいしかできないんです。

その4に続く

広津 崇亮(Takaaki Hirotsu
博士(理学)、株式会社HIROTSUバイオサイエンス代表取締役 1972年4月25日、山口県生まれ。東京大学大学院博士課程終了後、日本学術振興会特別研究員、京都大学大学院研究員などを経て、2016年に株式会社HIROTSUバイオサイエンスを設立し代表に。