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人工ミニ臓器「オルガノイド」で潰瘍が治る?【東京医科歯科大学教授岡本氏、水谷氏 その1】

オルガノイドの腸上皮移植による単回完結型補充療法の開発を行った東京医科歯科大学消化器病分野教授の岡本隆一と、ヒト大腸幹細胞培養技術の確立の研究を行った水谷知裕。
堀江氏はオルガノイドを使った難病治療に成功した岡本氏と、幹細胞治療の研究を行っている水谷氏に、治療の全貌を聞いた。

世界初のオルガノイド手術

堀江貴文(以下、堀江) 岡本さんは世界で初めて、「オルガノイド(ミニ臓器)」を使って移植手術を行なったんですよね。

岡本隆一(以下、岡本) はい。僕らが移植手術を行なったのは「炎症性腸疾患」という消化管の難病です。その中で、もっとも代表的な病気が腸の粘膜に炎症が生じる「潰瘍性大腸炎」で、2015年の時点で約22万人の患者さんがいました。年に1.5万人くらい増えているので、現在は30万人くらいの患者さんがいると思います。今年7月にお亡くなりになった安倍晋三元首相も潰瘍性大腸炎で悩まれていました。

堀江 ああ、そうでしたね。

岡本 もうひとつの代表的な潰瘍性大腸炎の病気は、腸全体に慢性的な炎症が起きる「クローン病」です。

堀江 潰瘍性大腸炎は、何が原因なんですか?

岡本 わかっていないんですよ。わかっていないんですけれども、いわゆる免疫の病気だと考えられています。

堀江 どんな症状が出るんですか?

岡本 軽い方だと、一日に数回の下痢や血便など。重くなると一日に10回〜20回の下痢、血便、それに痛みや発熱もあります。ですから、夜の頻繁な排便でぐっすり眠れなくなったり、食事もとりにくくなったりします。一般的な社会生活を送ることが難しくなりますね。

堀江 で、その潰瘍性大腸炎の患者さんに移植するオルガノイド(ミニ臓器)は、どうやって作っているんですか?

岡本 僕らは「体性幹細胞」といって、患者さんの組織から幹細胞(新しく細胞を生み出す能力を持った細胞)を取り出して、立体に培養しています。

水谷知裕(以下、水谷) iPS細胞は「多性能幹細胞」といって、例えば皮膚の細胞をさまざまな違う細胞に作り変えることができるんですが、私たちがやっている体性幹細胞は、患者さんご自身の臓器の中にある幹細胞を取り出して、その臓器の細胞を増やすという方法です。

堀江 それは、培養すると増えるんですか? 

岡本 はい。2009年にオルガノイド(ミニ臓器)の培養に必要なものがわかったので。

堀江 必要なものってなんですか?

岡本 幹細胞が足場として使う土台と増殖因子というタンパクがセットになった環境です。

水谷 ただ、培養に必要な環境よりも、幹細胞を見つけるほうが難しかったんです。腸の場合は、2007年にマーカーと呼ばれる幹細胞の目印が見つかりました。その目印を頼りに幹細胞を取り出して、幹細胞が元気になる環境を探したわけです。環境を見つけたのが2009年でした。幹細胞をたくさん増やす環境ができたので、患者さんからとった幹細胞を増やして、具合の悪いところに戻してあげれば、潰瘍などが治癒するきっかけになるんじゃないかと考えたんです。

堀江 幹細胞治療って、この20年くらいでめちゃくちゃ進歩しているじゃないですか。でも、それまではなんで「幹細胞は骨髄にしかない」って思われていたんですか?

岡本 いや、基礎研究の領域では1960年代、1970年代くらいから体のいろいろなところに幹細胞があることは知られていたんです。

堀江
 そのわりには、臨床応用の動きはなかったですよね。

岡本 それは、培養できる技術が伴わないと治療には使えないからです。

堀江 じゃあ、骨髄幹細胞の臨床はどのようにしていたんですか?

岡本 骨髄幹細胞は骨髄にもいますし、血液の中にもいるので、取り出しやすかったんです。それで、骨髄液を大量に取って、その中に含まれる幹細胞を利用するというところからスタートしたんです。ですから、幹細胞を増やすという工程が必ずしも必要ではなかった。

堀江 培養する手間が要らなかったわけですね。

岡本 そうです。

その2へ続く

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岡本隆一 (Ryuichi Okamoto
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 消化器病態学分野 教授
1972年生まれ。東京都出身。医学博士。1996年、東京医科歯科大学卒業。2004年、東京医科歯科大学博士課程終了。その後、東京医科歯科大学准教授、特任教授などを経て現職に。

水谷知裕 (Tomohiro Mizutani
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 消化器病態学分野 講師
1980年生まれ。三重県出身。医学博士。2005年、東京医科歯科大学卒業。2012年、東京医科歯科大学博士課程修了。その後、東京医科歯科大学助教などを経て現職に。