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「いかに太らせるかではなく、いかに4つの胃を健康にするか」【尾崎牛生産者・尾崎宗春氏が語るブランド牛の作り方 その3】

堀江貴文氏は2月8日、尾崎牛生産者の尾崎宗春氏を取材。「ブランド牛」の作り方などについて話を聞いた。(初回配信日:2016年2月13日)

餌の配合を変えない限り、尾崎牛はできる

堀江 「尾崎牛」という名前をつけようと思ったのはなぜなんですか?

尾崎 それは、他の農家が使っていないものを食べさせているから。僕の開発した餌の特徴はビールの搾りかすを使うの。

堀江 それ、言っちゃっていいんですか?

尾崎 いいよ。どうして牛は、草を食べてるだけであんなに大きくなるか不思議じゃない?

堀江 僕はわかりますよ。牛は胃の中に草を分解する微生物がいるからじゃないですか?

尾崎 そう。動物が生きていくためにはタンパク質が必要。でも、牧草にはタンパク質がほとんど含まれていない。じゃあ、何で牛は草だけで生きていけるのか? 牛には胃が4つあって、1番目から3番目までの胃の中には細菌や原虫がいる。その細菌や原虫が草の繊維などを分解して、脂肪酸やアミノ酸などのタンパク質を作り出す。そして、第4の胃でタンパク質を消化吸収する。

堀江 はい。

尾崎 だから、おいしい牛肉を作るためには、その栄養のもととなる餌の食物繊維が大事なの。牧草だけで育てるには1頭の牛に6000坪の牧草地が必要なんです。だから100頭くらいだったら放牧でもなんとかなる。でも、2000頭の牛を飼って毎月50頭出荷するためには、放牧だけでは難しくてやはり安定して手に入る食物繊維が必要なの。

堀江 それまでビールの搾りかすって、牛の餌としてはあまり使われてなかったんですか?

尾崎 使われてなかった。

堀江 何に使われてたんですか?

尾崎 ほとんど捨てられてた。

堀江 もったいないなあ。何でビールの搾りかすを使おうと思いついたんですか?

尾崎 それは35年くらい前に、九州のある飼料会社の社長が「ビールの搾りかすを使っていい飼料ができるから使ってみないか?」ってうちのおやじに言ってきたからなんです。それで使ってみたけど、その時は中途半端な使い方でうまくいかなかった。

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堀江 ビールの絞りかすって言ったら大麦ですよね。

尾崎 うん。

堀江 じゃあ、牧草を食べてるのと変わりないじゃないですか。それにビール酵母もある。

尾崎 そうなんだよ。だから腸内環境も良くなる。発酵飼料だからね。

堀江 善玉菌が含まれているということですよね。

尾崎 そう。それから大豆の“皮”に小麦の“皮”。普通の農家の人は、大麦とかトウモロコシとか大豆とかの“実”をあげるでしょ。

堀江 そうでしょうね。

尾崎 カロリーの高いものを与えれば、早く家畜が太ると思っている。確かに豚とか鶏はその通り、単胃動物だから。でも、牛は胃が4つあるから「いかに4つの胃袋を健康にするか」「どうやって毎日10kgの穀物を安定して食べさせるか」の方が大事。僕はそれをアメリカで勉強してきた。

堀江 へー。

尾崎 アメリカの大学に行って良かったのは、解剖学とか遺伝学の基本的な勉強ができたことだね。日本では牛は貴重品だから、1頭の牛を10人くらいで解剖するでしょ。実験もそう。でも、アメリカは僕に50頭の牛を与えてくれた。

堀江 50頭ですか(笑)。

尾崎 これを使って好きなように実験をやれって(笑)。で、僕は「5頭をトウモロコシだけで太らせる」「5頭を大豆だけ」「5頭をトウモロコシと大豆と半分ずつ」みたいにして10パターン試した。そして、その牛たちのどこに脂がついたかを調べた。それから、牛の胃の中にいる微生物も全部調べた。それで、何を食べさせたら、どんな微生物が住み着くかがわかった。

堀江 日本の大学じゃ、そんなことはできないでしょうね。

尾崎 その時の研究で「トウモロコシの脂はこんな脂」「大麦の脂はこんな脂」ということがわかったから、自分でオリジナルブレンドを作った。日本の場合は、カロリーベースでしょ。だから、トウモロコシがその年不作で高かったら、トウモロコシを減らして大麦を多くしたりする。

堀江 そうか、安定しないんだ。

尾崎 そう。餌が変わると味が変わるんですよ。肉のおいしさって脂だから、餌を変えると脂の質と味が変わる。

堀江 そうですね。

尾崎 だから、この13種類の餌の配合を変えない限り、変わらない味の尾崎牛ができるんです。それがブランドとして信頼される。

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堀江 牛のブランドって、だいたい宮崎牛とか但馬牛とか、地域じゃないですか。それなのに自分の名前をつけたという発想がすごく面白いなと思ったんです。要は「どこで育てたか」ではなく「俺の作った牛」がブランドだっていうことなんですね。

尾崎 そうですね。ブランドは個人を特定するものだと僕は思います。

堀江 尾崎牛は餌が特徴だということはわかりました。他にも何か特徴はあるんですか?

尾崎 あとは水。牧場はいい水を求めて3回牧場を移転した。水道水はカルキの臭いがするから。

堀江 じゃあ、ここは井戸水なんですか?

尾崎 いえ、山水です。

堀江 山水⁉︎

尾崎 この牧場に移る前にいろいろと見て回ったんだけど、この牧場の敷地内にヤマメが泳いでいるような源流があったので、この場所を選んだんです。

堀江 なるほど。その山水を使ってるわけですね。

尾崎 使いたい放題ですね(笑)。

堀江 尾崎さんは、子牛はどうしてるんですか?

尾崎 買っています。僕は8か月の子牛を見れば、将来、何kgくらいになって、どんな肉になるかはだいたいわかる。最初はコストを抑えるために、子牛を産ませていたんですよ。でも、生まれてくる子牛は自分が望むような子牛じゃないほうが多かった。人間だって、兄弟でも体格や性格が全然違ったりするでしょ。

堀江 そうですね。

尾崎 だから、尾崎牛も最初の頃はバラツキがあった。それで、ひと月に30頭の子牛が欲しいのなら、500頭の子牛のセリに行って自分の気に入った肉質ができあがる30頭の子牛を買って来て作りあげたほうが尾崎牛の品質は安定する。だから、今は子牛を買っています。でもね、僕からみたら500頭の中、僕が気に入る仔牛は50頭くらいしかいない。だから、他の松坂牛やブランド牛生産者と取り合いになる(笑)。

堀江 それは、そうなりますよね(笑)。

その4に続く

尾崎宗春(Muneharu Ozaki)

「株式会社牛肉商尾崎」商主。1960年生まれ。宮崎県出身。高校卒業後、1980年に宮崎県農業試験場肉畜支場に入場。1982年、畜産の勉強のため渡米。1984年に帰国。 1992年「有限会社 尾崎畜産」2012年「株式会社 牛肉商尾崎」を設立。現在、「尾崎牛」は、和牛ブランドとして高い人気を誇っている