堀江貴文氏は10月26日、京都大学の斎藤通紀氏を取材。「生命科学」の最前線などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年10月29日)
マウスは哺乳類のモデル生物といわれるが、ヒトと違うところがたくさんあります。
斎藤 そんなおもしろいというか、わからないことばかりの生命科学の分野で、僕は生殖細胞のリプログラミングなどのプロセスをメインに研究しているんです。でも、生殖細胞は数がとっても少ない。最初は体内に数十個くらいしかないんです。しかも、それらはひとつひとつ精巣とか卵巣のもとになる組織に移動していく。だから追跡するのがとても難しい。そのため、とても研究しにくいんです。
堀江 なんでひとつずつ移動するんですか?
斎藤 なんでかはわからないですね。だから、iPS細胞やES細胞から、精子や卵子のもとになる“始原生殖細胞”をまず作ってみようと思ったんです。
堀江 なるほど。
斎藤 そして、始原生殖細胞ができたかどうかを確認するには、それが最終的に精子を作ったり、卵子を作ったりする機能があることまできちんと証明しなければいけないんです。なので、それを証明したら、世間的には「これで不妊が治るんじゃないか?」みたいなところに注目が集まってしまった。
堀江 まあ、どうしてもそっちのほうに目はいっちゃいますよね。
斎藤 そうですよね。
堀江 ちなみに、始原生殖細胞って人間の体の中だと、どのへんにあるんですか?
斎藤 最初は一番おしりの方で出来て来ます。
堀江 それは発生の過程で?
斎藤 発生の過程です。
堀江 生まれた時には?
斎藤 生まれた時にはもう精巣、卵巣があるので、その中にいます。生まれた時には、もう始原生殖細胞とは呼ばないんですよ。「精子幹細胞」や「卵母細胞」と言います。
堀江 iPS細胞から始原生殖細胞を経ないで、直接、精子とか卵子とかを作った例はあるんですか?
斎藤 ないですね。始原生殖細胞を経ないでは無理なように思います。
堀江 でも、始原生殖細胞から作れるようになるのは、結構、すぐなんじゃないですか?
斎藤 ヒトの精子や卵子をですか?
堀江 はい。
斎藤 マウスでは近いかもしれません。でも、ヒトはまだまだ研究が必要なように思います。途中で何が起こっているかをマウスのように研究できないので、なかなかわからないんですよ。だから、我々はカニクイザルというヒトにより近いものを使って途中の過程を今、研究している最中なんです。
堀江 途中の過程というのは、精子や卵子になる前の話ですか?
斎藤 そうです。
堀江 何が難しいんですか?
斎藤 マウスとヒトでは大きく違うところがあります。例えば、iPS細胞ってひとくくりに言いますけど、マウスのiPS細胞と人のiPS細胞は性質がかなり違います。それにヒトとマウスの発生の過程で最初に生殖細胞が出来てくる過程も違うと思います(ヒトではまだわかっていません)。精巣や卵巣の中に入った後の発生の仕方も細かいところで違ってくる。だから、難しいんです。考えたら当たり前なんですけど、マウスの場合は20日で生まれてくるわけですが、人の場合は10カ月もかかる。実は、そうした違いは最近までそんなに注目されていなかったんです。
堀江 そうなんですか?
斎藤 ええ。マウスは哺乳類のモデル生物で、マウスで研究したら哺乳類のことがだいたいわかるだろうと思われていたんです。でも、今はいろいろと研究が進んできて、哺乳類の中でも種による違いがいかに大きいかということが、逆に注目されています。
その4に続く斎藤通紀(Mitinori Saitou)
京都大学大学院医学研究科教授。医学博士。1970年生まれ。兵庫県出身。1995年、京都大学医学部卒業。1999年、京都大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。英国ウェルカムトラスト発生生物学・がん研究所、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターを経て、2009年より現職。2011年からは科学技術振興機構ERATO研究研究総括。