WITH

「精子や卵子の元になる 始原生殖細胞を作製」 【京大・斎藤通紀教授が語る 生命科学の最前線 その2】

堀江貴文氏は10月26日、京都大学の斎藤通紀氏を取材。「生命科学」の最前線などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年10月26日)

現存する人類にはネアンデルタール人の遺伝子が残っている

斎藤 ちょっと話がそれますけど、哺乳類の生殖細胞の作られ方と、昆虫や魚類、両生類などの生殖細胞の作られ方は原理が違うんです。

堀江 そうなんですか。

斎藤 昆虫や魚類などは、「あなたは生殖細胞になりなさい」っていう運命決定物質が、最初から一部の細胞の中に入ってるんです。それで、それらが生殖細胞になって、残りの細胞たちが体を作る。「だから、非常に多彩な形態をしていて、地球上のあらゆるところに住めるようになっている」という説があるんです。

堀江 なるほど。

斎藤 しかし、我々ヒトは、発生の途中で生殖細胞を作るという、古典的な生殖細胞の作り方をしているんです。

堀江 人間のほうが古典的なんですか?

斎藤 そう言われています。もともとはそうだったと。

堀江 でも、魚類とか両生類が哺乳類の先祖だって言われてるじゃないですか。

斎藤 進化的にはそうです。両生類の中にもヒトと同じような方法で生殖細胞を作る種もいて、そちらを引き継いでいるようです。ただ、生き残りに有利な戦略は、進化の過程で何度も現れてくるようです。

堀江 へー、面白いですね。世の中って研究されてないことだらけですね。

斎藤 そうです。生命科学の分野なんて特にそうですよ。例えば、抗生物質ってあるじゃないですか。今は抗生物質に耐性のある……。

堀江 耐性菌ですね。

斎藤 はい。耐性菌が問題になったりしていますよね。でも、例えばワニ。彼らは汚い川の中に住んでいますよね、細菌だらけの。そういう環境でガブガブ咬みあって、傷だらけになるじゃないですか。でも、感染症で死ぬワニってあまり聞かないですよね。実は、そういうところに注目した研究者がいて、ワニには細菌を一気に殺してしまったり、ものすごい抗菌能力のある物質を持っているんじゃないかと想定して、ワニの血を採って薬を生成するみたいな話があったんです。

堀江 へー。

斎藤 そういった幅広い研究をすると、今まで考えもしなかったものがいろいろ出てくる。

堀江 それこそ、サーマルサイクラー(DNA断片を複製させるための機器)で使うのとか。火山の火口から何かが採れたりするやつ……。

DSC_9590

斎藤 海の熱水噴出孔あたりに住んでるような熱耐性菌ですよね。

堀江 96度とかでしたっけ?

斎藤 そうです。そういった菌のDNA複製酵素は96度でも壊れず、遺伝子を96度でほどいて何度も複製する(増幅させる)のに使われています。

堀江 すごい世界の話ですよね。DNAとかそれで変質しないんですもんね。

斎藤 だから、DNAはすごいんです。

堀江 強いんですね。

斎藤 安定してるんです。96度でやってもディネチャーといって、2本の鎖が1本にはなるけれども、その1本が壊れたりはしない。そこまで安定しているので、あらゆる生命の鋳型になっているんだと思います。

堀江 タンパク質だと60度くらいですか?

斎藤 そうです。普通はそのくらいの温度で変性してしまう。

堀江 そう考えると、すごいですよね。

斎藤 それに、人間の遺伝子って実は寄生虫だらけなんですよ。知ってました?

堀江 いえ。

斎藤 ウイルスのゲノムだらけなんです。“レトロトランスポゾン”と言って、過去にいろいろな細菌が人間の中に入ってきて、その遺伝子のコピーが我々のゲノムの中に感染しているんです。ヒトの細胞は、それをちょっとずつ不活性化していく。実は、ヒトの遺伝子配列の4~5割はそういう遺伝子から出来ています。ヒトの細胞にはそういう遺伝子が働かないようにするディフェンスのメカニズムがあるんです。それもエピジェネテックなメカニズムによるんです。

堀江 へー、人間の遺伝子が寄生虫だらけっていう話は面白いですね。

DSC_9633
その3に続く この続きはメルマガで全文ご覧いただけます。登録はコチラ

Photograph/Edit=柚木大介 Text=村上隆保

斎藤通紀(Mitinori Saitou)

京都大学大学院医学研究科教授。医学博士。1970年生まれ。兵庫県出身。1995年、京都大学医学部卒業。1999年、京都大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。英国ウェルカムトラスト発生生物学・がん研究所、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターを経て、2009年より現職。2011年からは科学技術振興機構ERATO研究研究総括。