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がんを再発させるがん幹細胞へのアタック【東京医科歯科大学特別栄誉教授・中山敬一が語るAIとがん治療最前線その2】

東京医科歯科大学で特別栄誉教授を務める中山敬一教授。

堀江貴文氏は中山敬一教授から、現在行われている、がん細胞の数を抑制するためのAI技術と実用化に向けての実験について話を聞いた。

AIを取り入れた中山教授の研究により、ブロックするとがん細胞が死滅する酵素を特定できたという。マウス実験では良好な結果がでており、とくに肺がんとすい臓がんで効果を発揮しそうだが、問題は…?

大腸がんの再発を引き起こす、休眠中の“がん幹細胞”を発見!

堀江 他のがんにも効くんですよね。

中山 大腸がんと胃がん以外は、ほとんど効きます。

堀江 大腸がんと胃がんは、なんで効かないんですか?

中山 それは、大腸や胃などの消化管の細胞は普通の細胞と大きく違うからです。食事をすると糖分は腸から吸収しますよね。そこで、もし腸が自分で糖をたくさん使ってしまったら、他で使うエネルギーが少なくなってしまいます。だから、腸はエネルギー源としてほとんど糖を使わないんです。じゃあ、腸は何をエネルギーにしているかというとグルタミン(アミノ酸の一種)です。ですから、皆さんが飲んでいる胃や腸の薬のほとんどの成分はグルタミンなんです。

堀江 その薬が人間に使えるまでには、まだまだ時間がかかりそうなんですか?

中山 製薬会社が協力してくれれば、そんなにかからないはずです。

堀江 なんで製薬会社は協力してくれないんですか?

中山 それは、今、僕らが開発している薬に特許性がないからです。すでに特許が取られている化合物を使っているので……。

堀江 そうか。その化合物はAIで見つけたものですもんね。

中山 そうです。だから、今、見つけた化合物をちょっと変えて、合成展開してもっと強い薬を作れば「これは新しいものです」ということで特許が取れます。そして、特許が取れて初めて製薬会社が協力してくれるんです。ただ、その合成展開をするのに、やはり時間とお金がかかります。

堀江 お金はいくらくらいかかるんですか?

中山 1億円くらいじゃないですかね。

堀江 そんなもんなんですか?

中山 そんなもんなんです。

堀江 それくらいだったらすぐに集まるんじゃないですかね。知り合いに声をかけてみましょうか。

中山 ぜひ、お願いします。

堀江 じゃあ、そろそろ本題にいきましょう(笑)。大腸がんの再発を引き起こす幹細胞を発見したんですよね。

中山 そうです。がんがなぜ治らないかというと話は簡単で、抗がん剤治療をしても残ってしまうがんがあるからです。残ってしまうがんを「がん幹細胞」というんですが、これがまたがん細胞を生み出すので治らないんです。では、なぜがん幹細胞に抗がん剤が効かないのかというと、普通のがん細胞はどんどん増えますが、がん幹細胞は「静止期」といって休眠しているんです。抗がん剤はどんどん増えるがん細胞を殺すというコンセプトで作っているので、休眠しているがん細胞には効かないんです。

堀江 なるほど。

中山 そこで僕らは、がん幹細胞が休眠に必要な「p57」という遺伝子を発見しました。そして、このp57を取り除いて抗がん剤治療をしたら、マウスの実験ですが、かなり高い確率で生存率が上がったんです。

堀江 そうなんですね。

その3に続く

Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

中山敬一(Keiichi Nakayama) 東京医科歯科大学特別栄誉教授

1961年生まれ。東京医科歯科大学特別栄誉教授。1986年、東京医科歯科大学医学部を卒業。その後、順天堂大学大学院、理化学研究所、ワシントン大学博士研究員、九州大学教授を経て、現職。細胞周期を負に制御するCDKインヒビターの欠失が腫瘍発生につながることを世界で初めて証明するなど、細胞増殖の研究で世界的レベルの成果を上げている。