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5年、10年先のがん治療は“データドリブン”に。進化するAI技術【東京医科歯科大学特別栄誉教授・中山敬一が語るAIとがん治療最前線その3】

東京医科歯科大学で特別栄誉教授を務める中山敬一。

堀江貴文氏は中山敬一教授から、現在行われている、がん細胞の数を抑制するためのAI技術と実用化に向けての実験について話を聞いた。

抗がん剤治療中に休眠していた「がん幹細胞」が、治療後に活性化し、再びがん細胞を生み出すことでがんは再発する。このメカニズムを発見した中山教授は、「抗がん剤治療中にすべてのがん幹細胞を起こす」ことを考えた。

医療の世界もAIで進化する。AIやロボットが仮説、実験する日も近い!?

中山 これを人にも使えないかと思っているんですが、この治療法は「休眠しているがん幹細胞を叩き起こす」ので「がんを増やして殺す」ということになります。そのため「がんを増やすのは危険なんじゃないか」という声があって、なかなか進まないんです。

堀江 これは、正常な幹細胞には影響はないんですか?

中山 正常な幹細胞にも影響はあるとは思いますが、やはりがん幹細胞のほうが影響力が大きいんです。例えば、がん幹細胞は全力で走っているので、何かがちょっとぶつかっただけですぐに壊れてしまうけれども、正常な幹細胞はノロノロ走っているので、ちょっとぶつかっても止まれば大丈夫という感じで、そこまで影響はありません。

堀江 幹細胞はなんで分裂がそんなに遅いんですか?

中山 よくわかっていないんですが、ひとつは頻繁に分裂するとやはりエラーが起こりやすくなるんですよ。幹細胞は大事な細胞なので、あまりエラーを出したくない。それで、なるべくゆっくり分裂しているんじゃないですかね。一方で、幹細胞から分裂した子供にあたる細胞は、多少エラーが起きてもいいのでバンバン分裂するという戦略をとっているんだと思います。

堀江 じゃあ、がん幹細胞ってどうやって生まれるんですか?

中山 それは「普通の幹細胞ががん化して、がん幹細胞になる」という説と、「分化したがん細胞が何かの変異で幹細胞に戻って、がん幹細胞になる」というふたつの説があります。

堀江 幹細胞そのものががん化するか、暴走した細胞がリプログラミングによってがん幹細胞になるかということですね。

中山 そうですね。

堀江 よく、がんが再発しない人もいるじゃないですか。あれは何故ですか?

中山 それは、僕らもわかりません。でも、基本的に再発はしていると思うんですよ。それが、一生のうちでいつ起こるかという問題だと思います。がんが再発する前に寿命が来れば、見た目には再発がなく一生を終えた、ということになります。

堀江 そういう人は、免疫細胞とかが抑制しているかもしれないですよね。よく「がん細胞は身体中で作られているけれども、多くの人は免疫系がうまく働いて抑えている」とか言いますよね。

中山 はい。免疫が抑えているのか、または休眠状態にずっといるのか。再発するトリガーが何なのか。そして、いつなのかはまだわからないんです。

堀江 でも、先生の戦略は、すべてのがんを休眠状態から覚まして、全部を根絶やしにするということですね。

中山 そうです。そして、マウスでは治っているので、それをどうやって人間に応用していくかということです。

堀江 医療の世界もAIでだいぶ変わってきていますよね。

中山 はい。昔は「仮説ドリブン」といって、人間が仮説を考えて、それを実証するという流れだったんですが、今は「データドリブン」といって、まずデータをたくさん取って、人間がそのデータを見て実験をするという流れになっています。そして、これからは人間がデータを見るのではなくて、AIが何万件という人間では見られないような数のデータを見て、AIが仮説を考えて、人間が実験をするみたいな流れになると思います。また、そのうちに実験もAIやロボットがやるようになるんでしょうけどね。

堀江 そうでしょうね。データを入れて「ちょっと仮説を考えろ」といったらAIが考えてくれる。

中山 それが、今後5年、10年で変わりそうですね。

堀江 そうですね。楽しみですね。いやー、本日はありがとうございました。

中山 こちらこそ、ありがとうございました。

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Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

中山敬一(Keiichi Nakayama) 東京医科歯科大学特別栄誉教授

1961年生まれ。東京医科歯科大学特別栄誉教授。1986年、東京医科歯科大学医学部を卒業。その後、順天堂大学大学院、理化学研究所、ワシントン大学博士研究員、九州大学教授を経て、現職。細胞周期を負に制御するCDKインヒビターの欠失が腫瘍発生につながることを世界で初めて証明するなど、細胞増殖の研究で世界的レベルの成果を上げている。