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エイズ完治につながるワクチン技術とは?【霊長類医科学研究センター・保富康宏が語る感染症研究の最前線 その3】

堀江貴文氏は、 霊長類医科学研究センターセンター長・保富康宏氏から、エイズウイルスを完全に排除できるワクチン技術の詳細や、ワクチンが開発されるまでの経緯、今後起こりうる社会問題について話を聞いた。

「エイズ完治につながるワクチン」が開発されるまでの経緯

堀江 その治療薬やワクチンの最初のアイデアは、どんなところから来たんですか?

保富 私はもともと結核菌の研究をしていました。結核菌というのは、非常に強い細胞性免疫(免疫系の細胞が結核菌などの動きを封じ込めること)を誘導します。この細胞性免疫が有利になれば、結核菌のワクチンや、がん治療、アトピーや喘息なども治るのではないかと考えていたんです。一方で、1990年にアメリカで人の生ワクチンを使ったエイズ研究が進んでいました。その研究は、最終的には失敗だったのですが、それまでの我々の結核に関する研究と、そのエイズワクチンの研究を組み合わせたらいいのではないかと思ったんです。

堀江 なるほどね。

保富 実は、エイズ患者さんの死亡原因の1位は結核なんですよ。

堀江 あー、エイズの患者さんは体の免疫系が弱くなるから、結核菌に感染しやすいんだ。

保富 そうです。WHO(世界保険機関)が発表しているエイズ患者さんのマップと、結核患者さんのマップはぴったり重なります。

堀江 そうなんですね。

保富 例えば、HIV陽性で生まれてきた子どもは、結核予防のBCGワクチンを打てないので、将来、結核で死ぬことがある程度、運命づけられている。ですから、結核を研究していた私にとって、エイズはとても関わりが深いものでした。

堀江 結核菌って、空気感染でしたっけ?

保富 はい。大体、空気中に漂っています。

堀江 じゃあ、結核は普段から地味に感染しているんですね。

保富 そうだと思います。1960年の日本の10万人あたりの結核での死者が1000人を超えています。これは、現在の南アフリカと同じくらいの数字です。その南アフリカでは今、20歳を超えた人は100%結核に感染しています。1960年で南アフリカと同じだったということは、その時の日本の成人ほぼ全員が感染していると思います。そして、今、日本では若い人の結核は少なくなっているんですが、お年寄りの方で再活性する人が出てきています。

堀江 再活性化するまでは、何かの免疫系で抑えているということですか?

保富 たぶん、そうだと思います。

堀江 結核菌は弱いって聞きますけど?

保富 感染して、急性で発症するのは5%くらいです。その後に再活性化するのが約5%なので、感染した人の10%くらいしか実際は発症しません。しかし、HIV陽性の人たちは免疫系が弱くなっているので、その発生確率の10%が50%や60%になっているんです。

堀江 BCGって結核予防の注射ですよね?

保富 そうです。BCGは人の結核菌ではなくて、牛の結核菌を弱毒化したワクチンです。それを打って体に結核菌を認識させて、人の結核菌が体内に入ってきたときに、その結核菌を攻撃する。ただ、子どものうちは結核の防御効果が高いんですが、大人になると防御効果が著しく低くなるんです。それがなぜかはわかっていないんですよ。

堀江 そうなんですね。

保富 だから、世界で結核が減らないのは、大人の肺結核があるからです。日本では子どもの粟粒結核などの年間報告はほとんどないんですが、大人の肺結核はいまだに2万人近くの報告がありますから。

堀江 へー。

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その4へ続く

 

保富康宏(Yasuhiro Yasutomi)
国立研究開発法人 医療基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センターセンター長。1960年生まれ。大阪府出身。1990年、酪農学園大学獣医学研究科博士課程を卒業後、米ハーバード大学でエイズウイルスの研究を重ね、1992年にハーバード大学助教に就任。その後、2007年から霊長類医科学研究センターセンター長、三重大学大学院教授を務める