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がん細胞増殖をブロック!肺がんとすい臓がんに期待【堀江貴文✕東京医科歯科大学特別栄誉教授・中山敬一 AIとがん治療最前線その1】

東京医科歯科大学で特別栄誉教授を務める中山敬一氏。

堀江貴文氏は中山敬一教授から、現在行われている、がん細胞の数を抑制するためのAI技術と実用化に向けての実験について話を聞いた。

肺がん、膵がん治療の効果に期待も!がんの増殖をブロックする方法とは?

堀江貴文(以下、堀江) 本日はよろしくお願いします。

中山敬一(以下、中山)こちらこそ、よろしくお願いします。私達はがんの治療について、様々なアプローチから研究を進めていて、そのうちいくつかは近いうちに実用化できそうなところまで来ているんですよ。

堀江 ニュースになっていた大腸がんのがん幹細胞研究のほかは、どんな研究をしているんですか?

中山 たとえば、私、タンパク質に結合する化合物を人工知能で探す「Qイノベーション」という会社をやっているんですよ。タンパク質って三次元(立体)なので、それにピッタリ結合する化合物を探すのはすごく大変なんです。今の計算方法では1日に50個から100個くらいが限界です。でも、うちの会社のシステムを使うと1日に1000万個くらい計算できるんですよ。

堀江 具体的にはどんなことをやっているんですか?

中山 一番早く実用化しそうなのは、がんの低分子化合物です。がん細胞はめちゃくちゃ増えるんですけど、その原因となるタンパク質があるんですよ。そして、そのタンパク質を抑えれば、がんは死ぬということはわかっています。

堀江 そのタンパク質をどういうふうに抑えるんですか?

中山 がん細胞の中のDNAを大量に作っている代謝経路をブロックします。実は、そこががん細胞の弱点だということを僕らが発見したんですよ。

堀江 そんなのはすぐにわかりそうですけどね。

中山 それが、なかなかわからなかった。なぜかというと、細胞の代謝酵素って1000種類くらいあって、多くの研究者はそれを一つずつ研究していたからです。でも、僕らは細胞の中にあるすべてのタンパク質の量を測れる技術を開発したので、1000種類近くある代謝酵素の量をすべて計測できるようになったんです。

堀江 どうやるんですか?

中山 タンパク質はそれぞれ重さが違うので、質量分析計を使えば、タンパク質Aが何個あって、このタンパク質Bが何個あるかがわかるんです。

堀江 それは、どうやって測るんですか?

中山 簡単にいうと磁場を通すんです。そうすると、ある質量を持ったタンパク質はまっすぐ進むけれども、それ以外のタンパク質は途中で落ちたり、どこか遠くに飛んでしまったりして的から外れていく。そして、その磁場のかけ方を変えると、まっすぐ飛ぶタンパク質がどんどん変わっていきます。最初は質量100のタンパク質がまっすぐ飛んでいったけれども、磁場を変えると200がまっすぐに飛んでいく。次に300、400というふうに……。それで、まっすぐ飛んでいったところにある探知機で、100が多かったのか、200が多かったのかということがわかるんです。

堀江 なるほど。それで、がん細胞と正常な細胞を比較してみると、明らかにがん細胞にはある種類の代謝酵素が多かったと。

中山 そうですね。

堀江 それで、その酵素をブロックすれば、がん細胞は増えないんですか?

中山 はい。増殖が止まります。エネルギー分子であるATP(アデノシン三リン酸)がなくなりますから。

堀江 じゃあ、がん細胞はATPもADP(アデノシン二リン酸)がものすごく作られているということですか?

中山 ADPもAMP(アデノシン一リン酸)から作られていますし、AMPを作る合成酵素があるので、その酵素をターゲットにします。

堀江 でも、それって正常細胞にも影響を及ぼすんじゃないですか?

中山 それは、ある一定の濃度であれば大丈夫です。かなり濃度の高い薬を使うと正常細胞も死んでしまいますが、一定の濃度だと正常細胞は100%生きています。

堀江 そうか、それくらいがん細胞は大量にエネルギーを消費しているということか。

中山 その通りです。ちょっとエネルギーが不足してしまうだけで死にます。今、その薬がある程度までできていて、動物実験をやっている段階です。

堀江 動物実験はマウスですか?

中山 はい。マウスに飲ませてもピンピンしています。

堀江 でも、がん細胞は死んでいる。

中山 そうですね。その薬が一番効くのは小細胞肺がんで、2番目が膵がんです。このふたつは、5年生存率が非常に悪いんです。

その2に続く

Text=村上隆保 Photo=ZEROICHI

中山敬一(Keiichi Nakayama) 東京医科歯科大学特別栄誉教授

1961年生まれ。東京医科歯科大学特別栄誉教授。1986年、東京医科歯科大学医学部を卒業。その後、順天堂大学大学院、理化学研究所、ワシントン大学博士研究員、九州大学教授を経て、現職。細胞周期を負に制御するCDKインヒビターの欠失が腫瘍発生につながることを世界で初めて証明するなど、細胞増殖の研究で世界的レベルの成果を上げている。