堀江貴文氏は1月27日、新潟大学の藤村忍氏を取材。「リジン」で作る肉などについて話を聞いた。(初回配信日:2016年1月27日)
「飼育している段階で肉をおいしくする方法はない」と言われていました
堀江貴文(以下、堀江) 藤村さんは、ずっと新潟大学なんですか?
藤村忍(以下、藤村) いえ、一度、秋田県庁に就職して比内地鶏の研究などをしていました。
堀江 その時は品種改良とかの研究ですか?
藤村 そうですね。品種改良や大型化の研究を1年ほどやって、その後に大学に戻ってきました。
堀江 それからは、ずっと「肉のおいしさ」などに関する研究をされているんですか?
藤村 はい。“おいしいものを作る”というのは非常に楽しい仕事です(笑)。実は、“肉のおいしさ”に関する知見は意外に少ないんですよ。
堀江 へー、そうなんですか。
藤村 品種改良によって、肉がおいしくなることはわかっています。例えば、比内地鶏や名古屋種などの血統による研究は進んでいます。
堀江 豚の場合なんかだと、品種改良によって旨味の多い肉を増やしていくという方向性ですよね。
藤村 そうですね。豚の場合だと、イベリコや黒豚を使うことで脂のきめを細かくしたり、くちどけ感を良くするような技術がずいぶん進んでいます。実は「肉のおいしさ」には、“脂によるおいしさ”と“水溶性の成分によるおいしさ”のふたつがあるんですよ。
堀江 水溶性の成分というと?
藤村 グルタミン酸とかイノシン酸などの、アミノ酸のうま味です。これまで脂によるおいしさについての研究は進んできましたが、水溶性の成分によるおいしさについては、あまり研究されてこなかったんです。そこで、この「水溶性の成分をいかにおいしくできるか」というのが、私の研究テーマなんです。
堀江 へー、アミノ酸のうま味ですか。例えば熟成肉なんかだと、タンパク質が分解される過程でアミノ酸が増えておいしくなりますよね。
藤村 はい。ですから私は、そうした遊離アミノ酸の含有量を熟成段階ではなく、飼育している段階で増やしたいと考えたんです。
堀江 これまで誰か研究していなかったんですか?
藤村 はい。そういう研究は意外なほどありませんでした。というのも、“飼育している段階で肉をおいしくする方法はない”と教科書に書かれてしまっているからなんですよ。
堀江 教科書に「できない」って書いてあるのに、なんでそこに挑戦しようと思ったんですか? 普通はそういったことは、あんまり考えませんよね。
藤村 普通は考えませんね(笑)。なぜかというと、私が大学で卒業研究を始めた時に指導教員から「食肉の旨味を研究テーマにしろ」と言われたからです。
堀江 そこがスタートですか?
藤村 はい。それまでは「いかに短時間で成長させて食肉の量を増やすか」「いかに効率を良くするか」ということが研究の中心でした。しかし、「これからは品質の時代になるから、そこを研究せよ」と言うんです。でも、品質というのは非常に評価が難しい。そのため他の学生たちは、このテーマに手を出さなかった。やり始めたのは私だけでした。だから研究を始めた頃は、周囲から「ゴールまでは辿りつけないんじゃないか」って随分言われました。
堀江 周りの人はチャレンジもしてないんだから、本当はそんな偉そうなこと言えないはずなんだけどな(笑)。
藤村 たしかに(笑)。それで最初は、おいしい肉とおいしくない肉の成分はどのように違うのかを調べることにしました。
堀江 それは、実際に成分分析をするんですか?
藤村 成分分析もしますし、食べてもみます。その時には比内地鶏と普通のブロイラーを使って違いを研究しましたよ。
堀江 成分分析って、具体的にはどうやるんですか?
藤村 簡単に言うと、過塩素酸の入った液体に肉を漬けてホモジナイズ(均質化)します。そうするとタンパク質が落ちて水溶性の成分だけを分離することができます。そして、その成分を一生懸命に測るわけです。
堀江 へー。
藤村 すると、イノシン酸やグルタミン酸が肉のおいしさを感じる上で重要だということがわかりました。次に与える栄養によって味がどう変わるのかを調べました。
藤村忍 Shinobu Fujimura
博士(学術)、新潟大学農学部准教授(当時)。1966年生まれ。秋田県出身。1995年、新潟大学大学院修了後、秋田県庁に入庁。1996年、新潟大学農学部助手となる。2002年に准教授に。2008年から新潟大学地域連携フードサイエンスセンター事務局長に就任。「肉のおいしさ」が主な研究テーマ。