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「ナノカプセルが体中をめぐり、 知らない間に診断と治療をする」 【東大・片岡一則教授が語る “ナノ医療”の現状と未来 その3】

堀江貴文氏は10月5日、東京大学の片岡一則氏を取材。「ナノ医療」の現状と未来などについて話を聞いた。(初回配信日:2015年10月8日)

再生医療の大衆化がもうひとつの目標

片岡 実は、我々の目標はもうひとつありまして……。それは再生医療なんですよ。

堀江 いろいろやりすぎじゃないですか(笑)。

片岡 再生医療の考え方を変えたいと思っているんです。再生医療というのはiPSなどの細胞を使います。細胞は生物ですから、いわゆる“生鮮食品”みたいなものです。だから保存が難しく、コストが高くなる。でも、考えてみると同じような細胞は我々の体の中にもある。ならば、それを利用したらいいんじゃないかと。

堀江 ああ。

片岡 例えば、脊髄損傷などは時間が経ってしまうと難しいのですが、損傷してすぐであれば再生医療用の細胞を使わなくても、もともと自分の体の中にある細胞を活性化させて神経を再生させればいい。じゃあ、そのためにはどうすればいいかというと、いろいろな分化を誘導するためにふつうはタンパク質を使います。でも、タンパク質もやはり生ものです。そこで我々は「メッセンジャーRNA(タンパク質合成の情報を持つリボ核酸)」に目をつけました。

堀江 それでタンパク質を作る……。

片岡 ええ。遺伝子を使うということも考えられるんですが、遺伝子治療はゲノムを傷つける可能性があったり、ウイルス使うのが大変だったり、いろいろと問題があるんです。

堀江 はい。

片岡 だからメッセンジャーRNAがいいんじゃないかと。じゃあ、今まで何でみんなやらなかったのかというと、メッセンジャーRNAって体の中に入るとすぐに分解されちゃうんです。それから、すごい免疫反応を起こす。RNAはウイルスですから、炎症反応が起きちゃうんですね。

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堀江 なるほど。

片岡 そこで我々は、メッセンジャーRNAをナノカプセルの中に入れちゃう。すると分解が起きないし、免疫反応も抑えられる。そして、実際に神経の再生ができたんです。

堀江 へー。

片岡 嗅覚障害のモデルマウスで実験したら、嗅覚組織が再生したんですよ。

堀江 すごいですね。

片岡 それに、このメッセンジャーRNAは、水中では分解しやすいんですけど、粉にしてしまえば安定する。だからドライパウダーにしてしまえば、保存が簡単になるんです。お湯をかければ食べられるようになるカップヌードルみたいなものですね。

堀江 そうなると、いろいろなものが作れるんじゃないですか?

片岡 ええ。ワクチンにも使えますね。でも、これで再生医療が全部できるわけじゃなくて、やっぱり細胞を使わなきゃいけない場合もあるでしょう。だから、我々が目標としているのは“再生医療の大衆化”なんです。細胞を使った再生医療が数千万円するフェラーリだとすると、我々がやりたいのは庶民用のエコカー・プリウスみたいなものです。

堀江 これ、もし胸なんかに使ったら、おっぱいが大きくなったりするんじゃないですか? 脂肪幹細胞を刺激して……。

片岡 なるかもしれないですね。

その4に続く

片岡一則(Kazunori Kataoka)

工学博士。東京大学大学院 工学系研究科・医学系研究科教授(当時)。1950年生まれ。東京都出身。1974年、東京大学工学部卒業。1979年、東京大学工学部博士課程終了。東京女子医科大学助教授、東京理科大学教授などを経て、現職に。2011年にドイツで最も栄誉ある賞といわれる『フンボルト賞』を受賞。2012年には江崎玲於奈賞を受賞。